寒松千情(旧名:アナザー・スキップ・スキップ・ビート!)

「花とゆめ」連載中の「スキップ・ビート!」ファンサイト【珍魚落雁】第2書庫です。  尚×キョストーリーです。ご注意ください。

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はじめに

メッセージ

                天使の卵


                           ― ご案内 ―

 ご来訪ありがとうございます。

 ここは、「珍魚落雁」の別館その2
「寒松千情(旧名:アナザー・スキップ・スキップ・ビート!)」です。

珍魚落雁


 【創作物一覧】

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№183(『闇に咲く花』【20】(side:孝子)

アナザー・スキップ・スキップ・ビート!

 「スパイラル・スキップ・ビート!!」№183(『闇に咲く花』【20】 (side:孝子)



  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「…あ、あの…忠志さん やっぱりだめですよ!いくらなんでも…」

「大丈夫だから。こっちには、母さんも兄もいるし」

  振り返って

「義姉さんもついてくれてるから…ね」

 私に向かってほほえんでくれる忠志さん。

「はい!もちろんですわ。私、精いっぱい頑張りますから」

 北条家に嫁いで12年。
 やっと この家の一員として認めていただけた!

 そんな思いが胸にあふれて 指の先まで熱くなる。

「ですから。せりかさん、どうか遠慮はなさらないで。」

 それも元をただせば、この少女のおかげ

「お母様の3回忌…お一人で…なんて…とんでもないですわ!ねぇ、あなた!」

「そうだよ、せりかさん」

 主人も真剣な顔でせりかさんに言う。

「せりかさんは、我が家の大恩人。本来なら我が家総出でお参りさせていただくべきなんだから」

「そ、そんな!な、なに仰るんです!だって、今年は…」

「うん…。親父の初盆だからね…」

「喪主の母や長男の兄夫婦は抜けられないし…」

「ごめん。私も父をお迎えしたいの」

「そんな!先輩、謝らないでください!当然ですよ!」

「というわけで、俺しか行けないけど…ごめんね?」

「あ…の…!本当に!私一人で大丈夫ですから!!」

「…せりかさん…」

 唐突に
 今まで黙ってらしたお義母さまが話に入ってこられた。

「は、はい?」

「あなたは…私ども北条家に『恩知らず』の汚名を着せたいとお思いなの?」

「は?!」

「ああ!なんてことでしょう!これでは初盆で帰ってくる主人に顔向けできないわ!!」

 よよよよよ

 上品で楚々としたお義母さまが嘆かれる
 そのなよやかな風情は、さながら野に咲く笹ユリの花

「あー。やっと、行った!」

 せりかさんを乗せた忠志さんの車が視界から消えるのを待って
 沙織さんが 疲れた声でつぶやいた。
 
「ホント どうなるかと思ったわ」

「以外に頑固だったな。見かけによらず」

「お義母さまのおかげです!!
 せりかさんの弱み びしっと突いておられてすばらしかったです!」

「ほほほ 孝子さん よく気がついたじゃないの!」

「お、お母さま!?」

「さ、さっきまで泣いて…」

「甘いわねぇ、寛志も沙織も」

 あきれたように溜息をついた
 お義母さまは 私に にっこり微笑まれ

「孝子さん、行きましょう。
 北条家の冠婚葬祭のしきたり しっかり覚えてもらわないとね」

「はい!」
 
「沙織。あなたは夏休みの宿題でもしてなさい」

「あー!せりかがいないと効率半減なのに!こんなことなら ついていけば良かっ…」

「「「沙織(さん)!!」」」
 
「…わかってます。ごめんなさい」

 ほんとに、もう!

 忠志さんのお邪魔する気ですか!?

 あの賢くて可愛い少女を
 きちんと我が家の一員にすべく 頑張っていらっしゃるのに!  

 

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№182(『闇に咲く花』【19】(side:忠志)

アナザー・スキップ・スキップ・ビート!

 「スパイラル・スキップ・ビート!!」№182(『闇に咲く花』【19】 side:忠志)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「…やはり…!こちらのお宅 もう少しで 断絶しそうだったんですね…」

「なにしろ、うちは 元士族だから。戦争となれば、真っ先に飛び出す家系だ」

 蔵から 持ち出した家系図 研究室で広げながら 彼女に解説する。

 あの洞穴では そんな空間はないし
 入り口 開けたままでは いつ 誰がくるかわからないので

 早々に 入り口封鎖して 場所をかえることにしたのだ。
 
「第1次世界大戦が終わったあとが すごくやばかったらしい。
 一族の男たちは ほぼ戦死。跡継ぎということで、兵役を逃れてた長男は病死。
 しかも あいにく 子も なかったから…」


「それで どうやって 家系存続できたのですか?」

「縁続きの公爵家から 養女を頂いて、分家が後見役として養育し、
 長じて後に その娘に 分家筋の男を娶わせて存続させた…とある」


「回りくどくないですか?」

「ああ。すんなり その分家の男に継がせればいいのにと 思うが…。
 たぶん 公爵家に 子が多くて ていのいいやっかいばらいの相手にされたんじゃないかな?」


「1921年8月20日生まれ…ですね。その養女…芳子さんは」

「そうだな」

 生きていれば 89歳

 …が
 お気の毒なことに、第一子出産の折 若くしてお亡くなりになったようだ。

「2日違い…」

 ??

「誰と?」

「大韓民国 最後の皇太子のご長男 李晋殿下と」

「は?」

「忠志さん 昭和天皇陛下は何人兄弟だったか ご存知で?」

「もちろん。4人兄弟だろ?」

「実は もう一人 妹様がいらっしゃるって説があるのは…」

 …!

「…聞いたことは ある…。
 が、宮内庁にかかわる仕事をしてる以上 コメントは…」


「仮にです 妹様がいらっしゃるなら 恐れ多くも 内親王殿下ですよね?」

「もし いらっしゃったら…そうだね」

「それなのに 隠す必要があるって どんな場合でしょう?」

 …ふぅ…

「宮中のしきたりというか 迷信で…
 双子だった場合は 忌み嫌われて 生まれなかったことにされ…」


 はっ!

「でも、まさか 皇族のお血筋をひく高貴なお子様 濡れ紙あてて 息とめるなんて できませんよね?」

「…当然だ…!!」

 どんな血筋であろうが
 罪もない 赤ん坊に そんな無体なことできるわけが!!

「その頃 血筋が絶えかけていた名家に養女に…とは ありうる話じゃないですか?」

「と、突拍子なさすぎる!」

「漢詩では、女の口を除いて若を残した。つまり 女は外して、男を残した。
 仏像には、「女」「子」「韓」を加えてます」


 …?

「あの仏像…国家元首クラスでなければ持てないレベルの価値なのでしょう?」

「あ、ああ…」

「大韓民国の皇太子様なら 守り仏としてお持ちでも 不思議はないです」

「…そう…だが しかし!」

「そして あの紫水晶のある山。
 あんなに 貴重な山が ともに 下賜されてるんです。異常な厚遇でしょう?」


「……っ!!」

「それに その養女の名前『芳子』は 草冠外すと『方子』ですよね。
 李皇太子のお妃さまのお名前です」


「…まさか…」

「育てられないわが子に せめて自分の名を入れて名づけたい…という
 哀しい母心だったと…思いません?」


「…証拠は 何もない!ただの想像に過ぎない!!」

「ま。ぶっちゃけ そうですよね!」

「…は?」

「李王朝の血筋は もう絶えてるんです。
 第1皇子 晋殿下は 2歳にもならぬうちに 早世されました。
 後に生まれた弟様は、お子様を残されずに 亡くなられましたし」


「…?」

「失われた韓国王朝の血が 日本に流れて残されていたら…ちょっと 素敵かなって 思っただけです」

「素敵かな…って」

 なんて ミーハーな!!

「韓国と日本は 不幸な歴史がありましたけど…」

 彼女は 家系図 なぞりながら続ける

「大正天皇は、李皇太子のこと 弟のように可愛がってらしたそうなんですよ」

「…へぇ?」

「だから 軍部の…韓国を併合しようという動きにも 最後まで異を唱えてらしたそうです」

 ふいっと 彼女の声の調子が変わった。

「で、いきなり ご病気が悪くなられ ご退位に追い込まれた…と」

「…もともと…ご病弱な方だったと…」

「軍部にとっては ジャマな方がいなくなって万々歳でしたよね。
 日本軍部主導でアジアの支配進めたいのに 大正天皇は 絶対反対のお立場。
 まさか 天皇陛下のご意向には逆らえないし」


「…推測で 馬鹿なこと 言うもんじゃない!」

「まだ言ってませんよ?
 軍部が 天皇を暗殺したのじゃないかなんて」


「今 言っただろう!」
「軍によって支配されたあの時代は 日本史の中の闇でしたけど…」
 彼女は 窓の外に目をうつす。

 ほのかに光っている粒は…蛍が さまよってきたのか。

「大正天皇が貫き通そうとした李皇太子や韓国への好意とか
 罪のない 小さな命を 守り通そうとした善意とか…」


 闇の中に 光る小さな命

「人間ってまんざら捨てたものじゃないかもしれませんね!」 

 振り返った彼女の笑顔は 花のように美しかった。






















  
 

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№181(『闇に咲く花』【18】(side:セリカ)

アナザー・スキップ・スキップ・ビート!

 
「スパイラル・スキップ・ビート!!」№181(『闇に咲く花』【18】 side:セリカ)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


 なぜか ものすごく不機嫌になりながら
 忠志さんは 石の台に細工した蝋をはがしてくれた。


  礼留多可良子
  佐銀母金母玉母尓 
  麻尓武世尓奈母夜女迦韓


「山上億良ですか。なるほど 右回りに書いてありますね」

「…もう少し 悩んでみせてくれないかな!?
俺は 解読に1時間かかったんだから!」


「あ、すみません!気が つかなくて!
 うーん 難しいなぁ…。なんて書いてあるのかしら?」


「…すっごく わざとらしいから やめてくれるかな?!」

 どっちよ!?

 短気な人よね 見かけによらず?

「”銀も金も玉も 何せむに 勝れる宝 子にしかめやも”
 …でも 万葉集の原文と 3字 違いますね」


「っ!」

「どうかしました?」 

「…ああ!本来は これだ!」

 銀母 金母玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母

 なぜだか 深いため息ついて
 忠志さんは 手帳に書いてある文を 見せてくれる。

「ここの3字が違う」

 古→子(こ)
 米→女(め)
 迦→韓(か)


「なぜ わざわざ 変えたんでしょう…?」

「さぁ?韓国から伝来した 仏像だぞと 言いたかったんじゃないかな?」

「忠志さん なぜ これをわざわざ 隠したんですか?」

「隠すつもりはなかったさ。
 ただ 何かの暗号だと思ったから 風化して 字が消えないように 保護しただけだ」


 まさか
 この中に入ってこれるやつがいるなんて 夢にも思わなかったからな!

「………」

「せりかさん?」

「…北條さんのご先祖って 鹿鳴館にも 出入りが許されていた要人なんですよね?」

「ああ…らしいね。明治天皇から拝領したっていう硯箱とかも ある」

「タンスの中にあった漢詩…『如』が『若』に変わっていたの 覚えてます?」

「隠し場所には関係なかったし…単なる写し間違いじゃないか?
 どっちも 同じ直喩法で使うし」


「だめですよ 平仄があわなくなるのに!そんな 初歩的なミスありえません!」

「順番狂わせて書いてるうちに うっかりしたとか…」

 ……。

 「女の口」を除いて「若」に代え…
 仏像には「女」「子」「韓」を加え…?

 いや

 まさか 

 …でも…

「…どうして…」

「ん?」

「こんなすごい仏像が この御宅にあるのでしょう。
 きっと 韓国でだって 国宝ですよね…」


「ああ、まちがいなく…ね」

 まさか

 でも そんな

「…忠志さん…」

「ん?」

「北条家の家系図…あります?」

「あ?ああ、蔵を探せば…。せりかさん!?」

 忠志さんの声の調子が途中で変わった。

「どうした!?顔が真っ青だぞ!?」
 




















 

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№180(『闇に咲く花』【16】 (side:忠志)

スパイラル・スキップ・ビート!

 「スパイラル・スキップ・ビート!!」№180(『闇に咲く花』【16】 side:忠志)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


 突如 響いた悲鳴に 心臓が止まりそうになった。

「っ!!誰だ!?」

 しまった!
 こんなところ うっかり 見つかるなんて!

 急いで 声の方向に走り寄る。

「…っ!!せりかさんっ!?」

「あ、あは こんばんは 忠志さん いい月夜ですね…」

「…今日は 三日月だけど…?」

「ぎ。銀の爪と言って アラビアでは 喜ばれるんですよ?」

「ここは 日本だから!」

 睨み付ければ せりかさんが目をそらせる。

「後…つけてたのか?」

「いえ。入り口で 待ってました。
 今夜、忠志さんが 堀の仕掛け作動して 開けてくださるだろうと思って」


「…なぜ…そう 思った…?」

「だって 明日 岩穴にめぐらせる 大縄が届きますし、ばれずに入れるチャンス今夜しかないでしょう?」

「…いつから…俺を 疑ってた?」

「あなたが 漢文が苦手だと おっしゃったときから」

「…え?」

「仮にも 宮内省管轄の遺跡に 発掘許可してもらえる一流の考古学者が
漢文読めないなんて ありえません!恐竜の化石発掘とはわけが違います。
文献考古学!まず 文献解釈あってこその発掘でしょう?」


「っ!!」

「で、確信を得たのは 蛍見物にお誘いした夜」

「…な…?」

「私の口の動きだけの指示 解読できたの あなただけでした。
読唇術もおできなんですよね?」


「…それ…が?」

「だから、お父様のご遺言 あなただけは 正しく おわかりになったはずです」

「っ!!」

「お父様のお立場になって考えてみたら そんないまわのきわに
 漢文の暗号解読せよなんて まわりくどいこと おっしゃるはずないと思ったんです。
きっと 直接 具体的な指示をなさってただろうと」


「ああ…」

 ダメだ!
 
 これは 言い逃れがきかない。

 この娘の頭脳は いやってほど 思い知らされてる。

「もし あの漢詩見せられて 解読せよって言われたら お手上げだったと思うよ」

 『瓜』はイノシシの子ども。
 亥の子の時刻に 水が抜ける。(清→青)
 そしたら、堀の仕掛けを 操作せよ…(漢文の並びが下から上に引き上げるような入れ替えぶり)

 まわりくどすぎるだろう!

「あの漢詩は 念のための保険で きっと口伝されてたと思うんですけど…」

「そうと思いたいね!子孫の頭脳 信じすぎだ。
君レベルの知恵者が そうそういるとは思えないし!」


「お褒めにあずかりまして 光栄です」

「…で?俺を 訴えるのか?」

「何の罪でですか?ご自分の家の物 どうなさろうと その方の自由です。ただ…」

「ただ…?」

「どうして ご家族にまで 秘密になさる必要が?」

「…はずかしながら…兄は かなりな浪費家でね。
 義姉さんとの結婚も 父が『自分でこさえた借金は 自分の身で支払え』って 見放した結果なんだ」


「まぁ…スパルタ…」

「その兄が これ見たら どうすると思う?」

「根こそぎ 売り払って 酒池肉林…?」

「そういうこと!だから 必要な分だけ こつこつ 掘っては売り飛ばしてたんだ」

「納得です!」

「…ばらす…?」

「そうしたところで 私には 一円の利益もありません!
 私 何の得にもならないことは 絶対 やらない主義なんです!」


「…いい性格してるね」

「お褒めいただいて光栄です!」

「いや 褒めてないから…」

「ああ でも 一つだけ お願いが」

「…なに?」

「あの仏像の台座に彫ってる文が見たいので 風化にみせかけて細工した蝋はがしてもらえます?」

「…いつ 気付いてた…!?」

「昨日 見た瞬間に」

 にっこり
 天使のように せりか嬢は ほほえんだ。

「せっかく 一所懸命 下手なりにせこい細工なさってるのに
 皆さんの前で ひっぺがすのは さすがに お気の毒なので 遠慮いたしました!」


「君…本当に いい性格してるねっ…」

「やだぁ。そんなに 褒めていただいたら 照れちゃいますぅ!」

「だから 全然 褒め言葉じゃないから!!」





 

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№179(『闇に咲く花』【15】 (side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

「スパイラル・スキップ・ビート!!」№179(『闇に咲く花』【15】 side:セリカ)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人



   ― 翌日 PM 10:00 ―

  ― ががががが ―

 洞穴を覆っていた大岩が 滑り落ちて行く

 即 入り口まで 跳びはね 奥に向かう

 仏像のある広場が見える
 そこの岩陰の奥 小さなくぼみに 姿を隠した。

  ― ざっざっざっ ―

 入り口から 靴音が 聞こえてきた。

 堀の中で ここの入り口の仕掛けを動かした その足で 来たのだろう

 特製メガネを取り出し 暗視モードに切り替え 息さえ殺して 様子を伺う。

 …やっぱりね

 そこにいたのは 私が推理したとおりの 人物だった
 
 でも
 困ったことに

 この人が なぜ そんなことするのかが わからない

 悪い人間には見えないのだ どうしても

 あの仏像は 本物だし
 
 私の特殊メガネには 実はX線カメラも 搭載してあって 製造年代も 特定できるのだ

 正真正銘 1000年以上前の作品だった

 だから
 本物を売り飛ばして にせもの 置いたってことではない 

 それに

 あの台座に彫ってあった文章
 風化したようにみせかけて 読めない細工までして

 なんで そこまでして隠す必要があったのか

 私が こっそり見ているとも知らず
 その人は 黒檀の仏像をぐっとにぎりしめる

 ぐいっ

 そして そのまま 回転させた!

 …え?

 ― ごごごごご ― 

 仏像の背後のきらきらした岩が左右に割れたっ!?

 ― きらきらきらきら ―
 
 む
 紫水晶っ?!

 仏像の背後には 先が見えないほど長い洞穴が続いていて
 その壁一面に 紫水晶が はりついているらしく 奥のほうまで きらきらしてる!

 なるほど

 本当の家宝は これなのね。

 これで わかった

 沙織先輩のお父様が亡くなられたとき
 きっと膨大であっただろう相続税を納めることができた訳が

 沙織さんのお父様は おそらく この紫水晶の洞穴までは ご存知なかったのだろう

 ご存知だったのなら
 大事な長男を 気に食わない成金の娘と結婚させたりしなかったろうし

 きっと この人が
 台座の暗号 解読して見つけたにちがいない!

 ― がっがっがっ ―

 紫水晶を壁から 掘りはがす音が聞こえる。

 ま
 犯罪ってほどじゃあ ないわよね

 この家の財産なんだから この人の物でもある

 調べたけれど この人自身は さほど 贅沢な暮らししてるわけではない

 自分の私利私欲のために 使ってるわけじゃないのだし
 
 ここは 見てみぬふりして さっさと…

 ― ごろっ ―

 っ!!

「きゃぁぁぁ!」

 ぎくりと その人の動きが止まる

 こちらに 走り寄るのが 見えるっ!

 うっわ!大失敗!!
 
 こんなところで 転んじゃうなんてーっ!!

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№178 『闇に咲く花』【14】 (side:忠志)

スパイラル・スキップ・ビート!

 「スパイラル・スキップ・ビート!!」№178(『闇に咲く花』【14】 side:忠志)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「弟の悟です」

「初めまして 姉が お世話になっております」

 びしっと正座して きっちりとした御辞儀をする。

 まだ中学生くらいなのに 珍しい。よく しつけられている。

「突然おじゃまして、すみません。どうしても 姉の顔が 見たくて」

「そういえば、夏休みに入ってすぐ 我が家にお越しいただいたものね。お寂しかったでしょう」

「はい、とても!」

 ん?

 弟さんの背後で
 セリカさんが どこか遠い目をしてる?

「姉さんは 後妻である 僕の母に気を遣って 寮に入っちゃったり お休みでも お友だちの家にお世話になったりで
 下手すれば 1年くらい 顔見なかったりするんで…」

 …え…?

「悟っ!」

 せりかさんが 似合わぬ大声を発して 弟さんを制する。

「…あ、ま、そ…そうですの…」

 母が 返事に窮してしまった。

「よ、よろしければ 泊りがけで ごゆっくりなさって?」

「すみません、姉にあいたさに 家人の誰にも断らず 出てきたので、これで失礼します」

「まあ 残念だわ。今度は ぜひ ごゆっくりなさってらしてね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ 俺が 最寄りの駅まで お送りしますよ」

「いえ、、車を待たせてますので」

 はっ!?

「榊さんにっ!?ちょっと!この炎天下 こんな長時間 車の中で 待たせてるの!?」

「まさか!ちゃんと 近くの喫茶店で涼んでもらってたよ。さっき 携帯で知らせたから そろそろ 門に着く頃かな」
 
 おかかえ運転手さんつきって
 せりかさんのお家って けっこう 金持ちなのか?

「…なら いいわ。榊さん、もう 60なんだから 絶対 無理させちゃだめよ?!」

「わかってる」

 後妻…の子どもってことは 異母姉弟 

 とはいえ しごく 仲は円満そうだ
 互いに遠慮のないやりとりから それが伺える

 お姉さんとしてのせりかさんってのも なかなかいい。

 かなり 高飛車だけど なんだか可愛い。
 弟君も 楽しそうだ。きっと 姉さんのことが大好きなんだろう。

 だが

 そうか

 せりかさんが 我が家に滞在してるのは そういう事情か。

 異母弟とはともかく 義母とは うまくいってないんだろうな おそらく。

 弟君には悪いが
 冬休みも 彼女を 我が家に ご招待したほうがいいかもしれない。

 このお嬢さんがいてくれると
 我が家は ぐんっと明るくなるし。

 俺自身
 もっと 彼女のことが 知りたいし。

 なんせ このお嬢さんは 話しても 見てても 全然 飽きないから…な。







 

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№177 『闇に咲く花』【13】 (side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

 
「スパイラル・スキップ・ビート!!」№177(『闇に咲く花』【13】 side:セリカ)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人



   ― 翌日 AM 9:00 ―

「せりかさまに お客様が お見えです」

 北條家の皆様と仲良く朝食をいただいて
 寛志さんや孝子さん 忠志さんも 交えて 和やかに歓談していた朝のひととき
 直子さん(昔 北條夫人の お嫁入りのときに ついてきたという使用人さん)が
客の来訪を取り次いでくれる。

「私…に?」

 ???
 私が ここで 夏すごすこと知ってる人なんて…??

「はい 弟様が」

「…っ!!」

「…セリカ!」

 沙織先輩が 心配そうに 私を 見つめてる。

「あ、あの…?」

 異様なムードを 察したらしく 直子さんがとまどってらっしゃる

 いけない
 内輪の事情に よそ様 巻き込んじゃダメよね!

「あ、ありがとうございます!玄関ですよね?」

「応接室に お通しさせていただいております」

「お、恐れ入ります」

「まぁ セリカさんの弟さん?」

「それは、ぜひ お目にかかりたいな」

「お義姉さん!寛兄!ダメよ!家族水いらずで過ごさせてあげなさい!」

「え、え、ええ」「あ…ああ そうだな」

 お気遣いいただいてすみません!先輩!!



「やあ、お元気そうで お姉さま」

「…悟…」
 
 弟…とはいえ 学年は同じ

 誕生日も 3ヶ月とは変わらない

「どう…したの?こんなところまで」

「そりゃ もちろん お姉さまが恋しくて」

 しらじらしい…!

 私のこと
 家族だなどと 思ったことは 一度もないだろうに

 この子も
 この子の母親も!

「で?」

 冷たく 先を促す

「おばあさまが お袋を ねちねち 責め抜くんだよ」

 すっぱりと 悟も 本音を切り出す

「『セリカが 寮のある学校をわざわざ選んだのも
 夏休みになっても 友人宅に行って 帰ってこないのも
 あなたが いたらないからです!』って」

「まあ…。そんな ひどいこと…!」 

 それは いい気味ですこと!

 ふふん
 腹の中で せせら笑ってやる

 なんせ こいつの母親は
 男の子が生まれたのを 錦の御旗にして 私の母から妻の座 奪い取った性悪女

 どんな目にあったって 知ったことじゃない!

「でも、大丈夫よ。あなたのお母様は とても精神力の強いお方だから」

「…なんせ 人の夫誘惑して、乳飲み子抱えた正妻 追い出したくらいだもの…って?」

 ちっ

 人の腹の中 読まないでよ!可愛くない!!

「『男の子を産むのは 旧家の嫁の務め』ですもの。
それが できなかった母が 悪いのよ」


 でも
 こんなヤツに 私の本音を見せたりはしない。

 コイツだけじゃない
 コイツの母親にも その夫と その母親にも 慇懃無礼に 接してきた

 私が12歳の時 母は死んだ
 世間体のためにだけ しぶしぶ 私を引き取ったんだってことは
 引き取られたその夜の夫婦喧嘩で いやおうなく理解させられたしね!

「あなたという子宝を生んだ時点で あなたのお母様が 選ばれたのは 当然のことよ」

「僕は どっかに 養子に出せばいいんだってさ」

「は?」

「『南雲家は せりかに継がせる。悟は、どっかの金持ちに 養子に出せ。
 このごろは、一人娘が多いから 養子先は 引く手あまただろう』って お祖母さまが」

「…なっ!」

 何考えてんの!?あのくそばばぁ!!

 それじゃ
 あの時 なんで 母を追い出したのよ!

   「男の子を産むのは 旧家の嫁の務めです。それが できなかったあなたが 悪いの」

 そんな…非情な言葉で
 母が 心を病むほどに追い詰めたくせに!!

「なんせ 姉さんは その頭脳で巨万の富を稼いで
 傾きかけた南雲の会社 立て直させた 超天才少女だから…ね」

 淡々と 悟が 話を続ける。

「『将来 結婚して出て行かれたら、今までとった特許も これから先 得るであろう利益も
 みんな婚家のもの。そんなことは 絶対 耐えられません!』…だとさ」

「…なるほど…いかにも 南雲家の大奥様らしいお言葉ね」

「おかげで 母さんは すっかり情緒不安定。
 僕 抱きしめて泣き出すわ、ヒステリックにわめきだすわ…。正直 うっとおしいんだ」

「まぁ おいたわしい…」

 ま、そうでしょうね
 せっかく 腕により掛けて
 世間知らずのお坊ちゃま誘惑して 妻の座奪い取ったのに 人生計画台無しよね!

 はん!
 いいざまよ!!

 せいぜい 母が味わった 苦しみ悲しみ
 そのほんの一部でも 味わってみるがいい!!

「大丈夫よ。私には 南雲家継ぎたいなんて気持ち これっぽっちもないから」

 ひきとられたとき
 苗字も 絶対 変えさせなかった

 「吉野」は、母の旧姓。
 絶対に 南雲の苗字は名乗りたくないと 断固拒否したのだ。
 
 こいつらだって
 愛情のかけらもないんだから 引き取らなきゃいいのよ!
 いっそ 保護施設にでも入れてくれてたら よかったのに!うっとうしい!!

「もし 大奥様が そんなこと おっしゃったら」

 にっこり 悟に 微笑んであげる

「私が 特許を得て あなたのお父様の会社に使用を許可してるライセンス
 全部 引き上げるから…って ちゃんと 筋 通して…」


「脅迫するんだ?」

「…説得するのよ!」

「その答え聞いて安心した」

 悟が にんまり 微笑んだ。

「姉さんは 可愛い顔してるけど 根性悪いし。僕らのこと 心底憎んでるから
 親父の会社 つぶれても 全然 心痛めないだろうし。やるといったら ホントにやるよね」

「…っ!!」

「そう その顔のほうがいいよ、姉さん。心と裏腹な造り笑顔なんて 寒気がする」

 このガキ!
 あの女が産んだ子だけはある。ホント いやなやつ!!

「…それに 姉さんが そうなったの…僕らのせいだよね…」

 …ん?

「僕だって!選べるもんなら!もっと 親 選びたかったよ!」

「…え?」

「誰にも 恥じない…生まれ方 したかったよ!!」

「…悟…!」

「お祖母様には…今の姉さんの言葉 そっくりそのまま 伝える…」

 ずいぶん 長い間のあと 悟が 搾り出すような声でつぶやいた。

「…ええ…おねがい…ね」

 ちくり
 心が痛んだ

 坊主にくけりゃ袈裟までも
 もしかして 私 理不尽な恨み この子に抱いてた?

 子は 親を選べないのに

「私が いろんな特許とりまくって お金をためてるのは
 一刻も早く 南雲家から出て行きたいから。
 ライセンス使用を 無償であなたのお父様の会社に許可したのは
 おたくに住まわせていただいてる費用をお支払いしたいから」


 私にかけた経費 十分ペイできるだけの利益は 与えた

 高校の学費だって一銭も 出させてない
 高校を卒業したら もう 一人で生きていける。

 今までとった特許のライセンス使用料で 十分 自活できるし。

「もし すんなり 私の自立を お許しいただけるなら 今後とも ライセンス使用は 無償で許可します…と」

「うん!伝えるっ!」

 元気よく 悟が 答えた。

「いまや 姉さんのライセンスが うちの命綱だからね!
 お祖母さまも きっと あわてると思うと…笑えるな!」

「…つくづく…性格の悪い子ね」

「そのへんは 姉さんに 似たかな?」

「なっ!?」

「半分とはいえ 血がつながってるんだし。似てても おかしくないでしょ?」

「やめて!私は あんたのこと 弟だなんてこれっぽっちも…」

「姉さん!父さんとか 母さんとか お祖母様とか そんなの全部抜きにして 僕を!僕自身を見てよ!」

「…悟?」

「みんなといっしょくたにして 僕のことまで そんなに嫌わないで!頼むから!!」

「っ!!」

「それに…父さんだって!
 気が弱くて お祖母様に逆らえなくて 母さんに押し切られて 
 姉さんのお母さん捨てたこと 死ぬほど 後悔してるんだ。」

「はっ!まさか!!」

「本当だよ!だから 姉さんには 合わせる顔がなくて
 どうしても ぎくしゃくしてたけど 姉さんのこと ずいぶん心配してるんだから!」

 …っ!

「…なんて 僕が言っても 説得力ないか。
 僕も…母さんに逆らえなくて 姉さんに 冷たくあたってたんだし」

 ふぅ
 ため息ついて 弟が立ち上がる。

「まだ子どもで…逆らえなかった自分が 情けないよ。
 今なら…絶対 自分の意志通したのに…な」

「悟…」

「たまには 帰ってきてね、姉さん。せめて お正月くらいはさ」

「ええ…そう…ね。」

 さすがに
 年末年始にまで 人様の家にお邪魔するのは はばかられる

 いくら『我が家と思ってください』と 言っていただいてても…だ。

「で、研究室にこもってしまわず 少しは…」

「それは 無理!」

「…即答だね」

「話があるなら アンタが 研究室にきなさい!
 ビーカーでインスタントコーヒー入れてあげるから」


「…うんっ!!」

 ぱぁぁぁ
 一気に 弟の顔が 明るくなる。 

「なに…ビーカーコーヒー そんなにうれしい?」

「姉さんが 自分の城に 誘ってくれたのが うれしい!
 試験管アイスキャンデーでもなんでもいいよ!」

「…あんた ほんとに むかつく子ね!」
 
 

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№176 『闇に咲く花』【12】 (side:忠志)

スパイラル・スキップ・ビート!

 「スパイラル・スキップ・ビート!!」№176(『闇に咲く花』【12】 side:忠志)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「「こ、国宝…!?」」

 そこにいた全員の悲鳴が 洞穴にこだました。

「ま、でなきゃ ここまで 厳重に 秘めたりしませんよね」

 ただひとり
 芹香嬢を除いて!

「この仏像の存在がばれた場合 国に強制的に 買い取られますから。破格な安値で」

「そ、そんなっ」

「『文化財保護法』というのがあってね。国民の義務なんだよ」

「…報告…しなきゃ ダメなの?」

 沙織が 不安そうに言う。

「下手に鑑定に出したら そうなる。どうする?」

 みんなが 兄貴のほうを見る。
 今 この家宝の正当な持ち主は 寛志兄さんだから。

「いいじゃないか。このまま うちの家宝で。先祖代々 伝わってきた大切なものなんだから」

「ええ!そうですとも!!」

 兄の言葉に 義姉さんが 力強くうなづいた。

「私!親兄弟にだって 言いません!絶対!!」
 
「…じゃ ここは このまま 封印しておこう」

 やわらかい刷毛で 仏像のほこりを払ってから たちあがる。

「お二人に跡継ぎの長男が生まれて…その子に伝える時まで…ね」

 ぼぼっと 義姉さんのほほが 真っ赤に染まった。

 その妻の肩をしっかり抱きよせている兄。

 どうやら
 兄貴も 落ち着きそうだ、やっと。

 甥だか姪だか…が できる日も 遠くないかもな。

「さ じゃ 戻ろうか!」

 そのとき
 すっと 芹香嬢が 台座のそばにかがみこんだ。

 っ!!

「…どうか…した?」

「ここの字…なんて書いてあるか 読めます?」

「…さぁ…いったろ?漢文方面は 苦手で…ね」

「そうなんですか。困ったな 風化して 削れてるから 考古学専門家の方じゃないと 読めませんよね」

「ごめんね お役に立てなくて。事情が事情だから 専門家呼ぶわけにも…」

「ですよね!」

 案外 あっさり 芹香嬢は 切り替えて立ち上がった。

「時のはざまに埋もれるとこだった仏像に 逢えただけでもよしとしましょう!」

「そうだね。君の推理 ホントに見事だった。おみそれしたよ」

「ええ、ありがたいことです!」「ホント お手柄だった!」

「君のおかげで、きっと父も喜んでるよ」「心から感謝します、芹香さん!」

 みんなが 口々に彼女を賞賛し 感謝の弁を述べる。
  
「あなたは もう家族の一員です。いつでも、ここを 我が家と思っていらしてください!」

「ありがとうございます」

 家長である兄の
 家族の思いを代弁した言葉に
 にっこり ほほえんで 芹香嬢が おじぎする。

 ふぅ

 一時は どうなるかと思ったが…!

 ふっ

 しょせんは 高校生

 案じるまでも なかったか…!









  

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№175『闇に咲く花』【11】 (side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

「スパイラル・スキップ・ビート!!」№175(『闇に咲く花』【11】 side:セリカ)


  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


 社の裏側に現われた洞穴
 あそこに行くには 2mほどの急斜面を登らないといけない。

「こんなことなら もっと 身軽なかっこうしてくるんだったわ」

 真夏でも 涼しげに 絽の置物をお召しの北條夫人が悔しそうにつぶやく。
 
「おまえも そのサンダルじゃ 無理だな」

 寛志さんが 妻の足元を見ながら 冷ややかに言う。

「…俺の靴でも…ぎりぎりだろう」

 ぐっぐっと 靴底を土に噛ませて確かめている。

「俺が先ず登って ロープで…」

 ぱちんっ

 スニーカーに仕込んであった 重力制御ボタンを解除する。

「おば様 孝子さん 沙織先輩  私の肩に つかまってください」

「「え?」」

 真っ先に 沙織先輩が動いた。

「ほら!早く!」  

 ぱっと 私の肩につかまってから
 沙織先輩が 残りの二人に声をかけてくれる

「え、ええ」

 北條夫人と孝子さんがおずおず 私につかまった。

 それを確認してから、腰のベルトのスイッチを押した。

 しゅるるっ
 特殊ロープが ぐるっと私の周囲を取り囲み
 3人の女性を しっかり 私の体に 密着させた。

 そして とんっと軽くジャンプする。
  
「「きゃぁぁぁあぁ?」」

 慣れてる沙織先輩以外の二人が ひしっとしがみついてきた。

 おっと
 地上10m 
 ちょっと 加減を間違った

 肩先のスイッチで落下スピードを緩めながら 洞穴入り口に着地する。

「あああ…」

「あ、あなた いいいったい…!」

 足底に地面を確かめて ロープ解いた後でも お二人は立ち上がれず 震えてる。

「あは!私 ちょっと 日曜大工が趣味でして…!」

「に、ににに にちようだいくって!!」

「そんな可愛い類のものじゃない気がするけど…?」

 自力で登ってきた 忠志さん 

「…おどろいた…な」

 その弟にロープを投げてもらってあがってきたらしく 服の前面泥だらけな寛志さん

「そういえば…さっきから やけに強力なサーチライトとか…暗視メガネとか…」

「私 小物作りが 趣味なんですぅー」

「こもの…ねっ!」

 ちっ
 かわいぶりっこ笑顔では ごまかされてくれないかっ!

「さ!まずは 洞穴の奥 確かめてみましょうか!」

 なので
 話題展開を 試みる

「ねぇ、芹香さん」

「はい?」

「その便利な靴があれば あの堀から上がるの 造作なかったんじゃないのかな?」

 ぎくっ!

「あ そ そうでしたよね!やだ!私ったら すっかり忘れてましたぁー!」

「わすれて…ねぇ」

 ぎくぎくっ!

「まぁね。この子 頭はいいけど そそっかしいのよ」

 沙織先輩が 助け舟を出してくれる。

「しょっちゅう ドジばかりしてて 尻拭いするの いつも私なのよねーっ!」

 うっ

 こ、これは
 かばってくれてるんじゃなく
 まがいなく 本音でゆってますね!?先輩!!

「仏像…?」

 曲がりくねった洞穴を 10mほど歩いたところに それは あった。

 ささっと 忠志さんが 駆け寄る。

 周囲の岩肌には 石英が混ざっているらしい。

 ライトの光に反応して きらきら 輝いている。

「黒檀一刀彫り…相当 古いものだな…。X線鑑定しなきゃ 正確な年度はわからないが…」

「これが お義父さまが おっしゃってた家宝…?」

「らしいな。おい、これ、時価 いくらほどするんだ?」

「あなた!なんてことおっしゃるの?」「寛志!売るつもり!?」

 孝子さんの抗議と 北條夫人の非難がかぶった。

「え?」と 意外そうなおももちで 北條夫人が嫁を振り返る。

「…あなただって そうするつもりで 探してたんじゃ」

「とんでもありません!私!私は ただ…」

「…ただ…?」

「お、お義父さまが いまわの際まで あんなに気にしてらしたから!
安らかに眠っていただき…たく…て」

 ぼろぼろぼろぼろ

 感極まってしまったのだろう そのまま泣き出してしまった。

「でも、よかった!これで お義父さまも 安心してらっしゃいますね。家宝のことが伝わって!」

「…ええ…そう…ね」

 北條夫人が 優しく 孝子さんの肩に手をおいた。

「きっと 喜んでます。ありがとう、孝子さん」

「…お義母…さま…」

 涙にくれる孝子さんを 寛志さんが 優しく抱きしめた。

「泣いてないで ちゃんと 我が家の家宝 見届けろよ、長男の嫁として…な」

「っ!…は、はいっ!!」

 ほっ

 少なくとも 懸案事項の一つは 解消したっぽい。

「…もし これが つい 最近 作られたものだとしても…材質 細工から 考えて 1千万はくだらないな」

 北條夫人と寛志さんご夫妻が 忠志さんの声に振り向いた。

「おい!俺は参考までに聞いただけで 本気で売るつもりは…!」

「わかってるよ、あくまで 参考までに 言っただけだ」

「忠志さんのお見立てでは いつ時代の作品ですか」

「天平の頃…朝鮮半島から わたってきた仏像に 酷似してる。表情とか 体のラインとか」

 手に白手袋をはめて 慎重に検分している。

 それほど 大きくない。

 高さは 30cmってところだろうか。

「でも ずいぶん きれいな状態ですよね。そう 古くはないんじゃ…」

「いや。黒檀だから 保存状態がいいんだ。
 これが ほかの木だったら 湿気でやられてるだろうけどね」


 黒檀の仏像は 蓮華のような台座にのっている。

「この台座は…」

「それは 明らかに新しい…とは言っても 50年くらいはたってるか。この仏像置くために作ったみたいだ」

 仏像は動かさないように 細心の注意を払いながら 
 忠志さんは 拡大鏡を使って 注意深く 観察している。

「どうなんだ…?忠志」

俺の見立てが正しければ…」

 忠志さんが 拡大鏡を置いて 振り返った。

「国宝レベルの物だよ、これ」






  


 
  

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№174(『闇に咲く花』【10】(side:忠志)

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  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花 【10】(side:忠志) 

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「こ、これは…!?」

 北條家の鬼門を守らせるために 設けられた社

 その社の裏側には 小さな岩山があり 鎮守の森がある

 今
 その大岩がずれて ぽっかり洞穴が現れている

「し、知らなかったわ!こ、こんなしかけがあったなんて!」

「あ、ああ…守り石…として 置かれていたのは知ってたけど…洞穴のふただったのか…!」

 芹香嬢は 強力なサーチライトで
 石のそばにあった注連縄をじぃっと見つめている

「北條夫人」

「な、なんでしょう?」

「…この注連縄 この大岩にかけられてたものですよね?」

「ええ 岩の周囲には巻けないから 後ろのご神木ごと とめていたものだけど」

「最近…この注連縄 換えられました?」

「え?いいえ?」

「その縄は 12年に一度 換えることになっててね。次に換えるのは、2年後だな」

「ってことは、10年は たってるんですよね…」

「ああ…でも…どうして そんなことを?」

「仕掛けが動いた衝撃で この縄 切れているんですが…いやに切り口が新しいんです」

 っ!!

「それって つまり…縄が入れ替わって…?」

「つ、つい 最近 この仕掛け 動かした人間が いるってこと!?」

「…ですね…。きっと、仕掛けを動かせば 縄が切れる…というのも 仕組みの一種なんでしょう」

「…と…いうと…?」
 
「予期せぬ訪問者があったことを知らせるための…ね」
 
 ~~~!!

 背筋に 冷たい汗が流れる

 この娘!

 いったい どこまで 見抜いているんだ!?

 

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№173 『闇に咲く花』【9】(side:セリカ)

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  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花 【9】(side:セリカ) 

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


 ごごごごごごごご

 寛志さんが 鉄の輪をひいたとたん
 どこか 離れた場所で 雷鳴がとどろくような音がした

「…っ!?な、なんの音!?」

「…どこから…」

「東北東の方角です。…そこには 確か 小さな社がありましたよね」

「あ、ああ…鬼門を守るための…鎮守の社だけど…そんなとこまで 調べ済みなんだ?」

「あまりに すてきなお庭ですので ハイキング気分で つい ふらふらと!」

「ずいぶんな健脚だねぇ 芹香さん。本家から 社までは 1Km以上あるのに」

 えーえ!苦労しましたとも!!

 夕方 ししおどしが 鳴らないことに気づいて即 この敷地中 探査しまくったんだから!!

「では 行きましょうか!」

「ちょ、ちょっと!? どうやって この堀から あがればいいのよ!階段なんか ないでしょ!?」

「…あああ そ、そうですね!どうしましょう!そこまで考えてませんでした!!」

「せりかぁ~!!」

「ご、ごめんなさぁいぃ」

「俺が 先に上がろう」

 忠志さんが 即 堀にとりついた。

 石垣のくぼみを巧みに利用して ひょいひょいっと登っていく。

「ほら 手を出して。ひっぱりあげるから」

「す、すみません!助かります」「ありがと!兄さん!!」

「俺は 手助け無用だ。この程度の高さ…」

「無理しないで。俺の作業靴ならともかく 兄さんの靴じゃ すべる」

「…だな。頼む」

 強い!この人!!

 一見 俳優にしたいような優男なのに 

 小柄な私やスマートな沙織さんはともかく
 60kgはあるだろう お兄さんの体重を 片手一本で 軽々とつりあげてる 

「…では 音のした方角めざして…社まで 移動しましょうか」

 お兄さんが 無事 堀から脱出したの確認してから 皆さんに声をかける。

「…ああ…。楽しみだな。どんな仕掛けがあるのか」

「ええ…。すっごく楽しみです!」

 さぁて
 どんな謎が 隠されているのか…

 期待と不安で 胸が どっきどき!!

  

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№172 『闇に咲く花』【8】(side:忠志)

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  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花 【8】(side:忠志) 

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「最初に 疑問に思ったのは ししおどしなんです」

「…ししおどし…?」

「あの カッコーンて音 昼 聞く分には 清涼感があっていいでしょうが…夜寝るときは うるさいと思いません?」

「き、気にしなかったわ もう 慣れっこだし」

「気にならなかったの 当然です」

「…え?」

「ここの ししおどし 18時から 翌朝6時まで 音が鳴らないしかけになってますから」

「…しかけ…?」

「北條夫人 ここの敷地…と いいますか この山全体 北條家の所有なのでしょう?」

「…え、ええ 先祖代々…ね」

「とても 広大な敷地ですよね」

「まぁ…ね。でも、おかげで 相続税が大変で…!
 12年前 義父が亡くなったときには…危うく 切り売りしなきゃならない羽目に なるとこだったの!」

「そこを 孝子さんのご実家に 救われたんですね!」

「…まあ…ね」

 しぶしぶという表情で 母がうなづく。

「でも…じゃあ ご主人が亡くなられたときは また 相続税が…大変だったのでは…?」

「いや いま うちの経済状態は 好転しててね。今回は 独力で乗り切られたんだ」

 母に代わって説明する。

「それは、よかったですね!」
 
「ああ ありがとう…ところで…さっきの話…」

「はい!この広大な敷地 昔の城跡だったと思うんです!」

「「「城!?」」」

「驚くことですか?だって こちら様は 元華族でしょう?
 世が世なら お殿様だったっとしても 不思議でもなんでもないです!」


「そ、そう…だね…。えーっと だとしても ししおどしの仕掛けと どう関係が…」

「さっき 蛍がいた池は この堀から流れてくる水をためる仕組みになってました!」

「…え」

「しかも 階段状に そうですね 棚田みたいに 上の池があふれたら 下に流れるような設計で…」

「え?え?」

「その水は 流れ流れて 本宅の和風庭園の小川に…そして ししおどしに つながってました!!」

「だ、だから?」

「全部ひっくるめて 大掛かりな水時計になっているんですよ。18時から6時には ししおどしを鳴らさない設計にね。
 たぶん 城があったときには 鐘とかも連動させて 時を告げる仕組みもあったんじゃないでしょうか」


「じゃ、じゃあ…堀の水が枯れるのは…」

「もっと上のほうにも 調節する水路があって…この堀には 22時から0時まで 水が来ない状態に…あった!!」

「っ!?な、なにが!?」

「これです!」

 みんなが 芹香嬢の手元をのぞきこむ。

 堀の底のほう 丸いハンドルのような鉄の輪
 わざと くびらせてある石垣のかげで 上から覗き込んだだけでは まず 見えない位置だ

「寛志さん!」

「は、はい?」

「ひっぱってください!お父様があなたの手をとって なさったとおりに!」

「わ、わかった!」

 言われるがまま 兄が鉄の輪にとりつく。

 ぞく!

 寒い
 背筋が 寒い!

 なんなんだ!? この娘はっ!!

 水時計だと!?しし脅しの仕掛けだと!?

 たった1日で
 数十年 ここに暮らしていた者が 気づかなかったことを あっさりと!

 学問の最高学府…と 言われるところで学んで
 数々の研究者 学者たちと 出会う機会があったが…

 こんな
 こんな恐るべき知恵者

 いまだかつて 出会ったことがない!!








 

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№171 『闇に咲く花』【7】(side:セリカ)

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  女子高生名探偵 セリカ 闇に咲く花  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「な…なんのつもりよ!こんな真夜中に 蔵あさるつもり!?」

「よしなさい、孝子」

 孝子さんの抗議を ご主人がいさめる。

「俺たちの誰も解けなかった暗号 解いてくださった恩人なんだぞ。お任せすればいいんだ」

「そうよ!第一!蔵あさりまくったのは あなたのほうでしょう!」

「…っ!」

 沙織先輩の冷たい声に 孝子さんが 何も言えず うつむいてしまった。

 そんな妻をかばう気配もないご主人

 ふぅ

 悪い人じゃないのになぁ 孝子さん
 一度 ボタンを掛け違えてしまうと なかなか 軌道修正はむずかしそう…

 とはいえ
 大人の世界 ましてや 人様の家の事情に 口出しすべきじゃあない

「で?ここに何があるの?芹香さん」

「この蔵の周りには 結構 深い 堀がありますよね。ぐるりと」

「…ああ…。幅3m 深さ2m…は ある…はずだね」

「防犯のために作ったそうですわ。
 蔵への出入りは 唯一 この跳ね橋だけ。それも鍵がないと操作できませんから」

「その鍵は…?」

「本家と別宅に 1本ずつ。計2本。でしたね?お母さま」

「ええ。でも…大して 貴重な品があるわけでなし…その…うちのほうは…鍵の管理は 甘くて…」

「台所の棚の横に ひょいっと掛けていたくらいだものね!」

「別宅のほうでは いかがで?」

「俺が 常に 持ち歩いてる。父の死の直後、孝子が 勝手なまねして 母にしかられて以来…ね」

「そ、そうですか…」

 あああ やぶへび!
 孝子さんが ますます 落ち込んでいる!

「跳ね橋おろすの?なら、今 鍵を」

「いえ!用があるのは 堀のほうですから!」

「堀…?」

おそらくは 西側だと思うのですが…」

 ぴこん!
 カチューシャに しかけておいた暗視メガネで堀をのぞきこむ。

「あ、あぶない!ここの水深 けっこうあるんだ!君じゃ 背が立たない!」

「ほとんどありませんよ、水」

「…え!?」

 バングルに仕込んでいた セリカ☆スペシャル(超強力サーチライト)で 照らしてさしあげる。

 昼間 蔵を整理整頓していたときには 清流が さやさや流れていた堀には 今 水が まったくない。

 わずかに 水溜りのように 低い部分にたまっているだけだ。

「そ、そんな!?」

「…どうして…こんな…」

「わざわざ こんな時間に 蔵に来られることはないでしょうし…いらしたとしても 外灯もないこんな場所で
 堀の水の有無なんて 気づかなかったのでしょう」


 ぴょんっと 堀の中に飛び降りる。

 堀の両側は 石垣が組まれた形…。まさしく 堀だ。

 その石垣の合間を くまなく 見て回る。

「…ってことは 今だけの現象じゃないわけ!?」

 ジーンズにスニーカーだった沙織先輩
 綿パンとカジュアルシューズだった寛志さん 発掘作業着だった忠志さん

 身軽な格好の人たちが 次々 堀の中に飛び降りて 私についてきた。

 北條夫人と 孝子さんは 上から ついてきている。

「毎晩 亥の刻から 子の刻の間は 水が 干上がってるんです」

「な、なぜ 知ってるの!?」

「あの漢詩に そう書いてありました」

「どこによっ!?」



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№170 『闇に咲く花』【6】(side:沙織)

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  女子高生名探偵 セリカ  闇に咲く花 【6】 (side:沙織)   

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


 こんこんこんこん

 夕飯が終わって
 リビングで食後のコーヒー飲んでくつろいでいたひととき

 窓ガラスが 外からたたかれる音に 全員の注意がむく

「あら?せりかさん?」

 母が 驚いて立ち上がる。

「まあ!いつのまに 外に!?」

「なんていってるんだ?」

 孝子さんに続いて 寛志兄さんも 窓際に近寄ってきた

 なにやら 大声で叫んでるようだけど
 あいにくここの窓ガラスは 完全防音仕様 声はまったく聞こえない。

 シリンダー錠をはずして 開けようとした私を 忠志兄さんが止めた。

「彼女『外に来てください!珍しいもの 見つけました!』…って、言ってる」

「ま、まさか」

「家宝が見つかったの!?」

「…さあ?とにかく 出てみようよ」

 やけにはりきってるせりかの先導でたどりついたのは 和風庭園の池のほとり
 そこから 流れる小川の両岸の草むらの…そこかしこに たくさんの蛍が飛び交っている

「…珍しいものって…これ?」

「め、珍しくないですか!?私!こんなの 生まれて初めて見ました!!」

「あなたねぇ!」

 けんけんと 孝子さんがかみつく。

「私たちは ずっとこの家に住んでるの!いまさら こんな風景 珍しくもなんともないのよ!」

「…でも 確かに きれいだ…」

 寛志兄さんが 優しく せりかに微笑む。

「ありがとう せりかさん おかげで 我が家の魅力の一つを 再発見できました」

「い、いえ ごめんなさい 私 考えなしで…」

「…蛍のこと『あくがれいづる魂か』って歌ったの 誰でしたっけ」

 母が 乱舞する蛍の群れ見ながら ぼそっと つぶやいた。

「和泉式部です。『もの思へば 沢の蛍も わが身より あくがれいづる 魂かとぞ見る』」

「思い悩んでいるわが身には、蛍のはかない光は、まるで自分の切ない魂が
 体からぬけ出て飛んでいるように見える…。切ないお歌よね…」

 …お母様…!

「お、おばさま!あの…!」

「『おく山に たぎりて落つる滝つ瀬の玉散るばかり ものな思ひそ』」

 忠志兄さんが ぽんと 母の肩に手を置く。

「忠志?」

「その歌に、貴船の神様が返した歌だよ。『そんなにあれこれ思い悩みなさんな』ってね」

「忠志…」

「其子等(そのこら)に捕(とら)へられむと母が魂(たま)蛍となりて夜を来たるらし」

 静かに せりかが つぶやいた。

「この短歌 中学校で習ってからは 私 蛍が大好きになったんです!
 だって、この中には 私の母の魂が 来ているかもしれないって 思えましたから!」


「…え…」

 忠志兄さんが絶句し
 その場の空気が 凍りついた。

 さっと 忠志兄さんが 私を振り向いた。
 …ので 軽く うなづいてみせる。

 本人が 打ち明けたんだから 問題はないだろうし。

「おばさま、いつまでも 泣いてらっしゃると おじ様 心残りで 天国にいけませんよ?」

「…せりか…さん」

「さ 十分 眼の保養しましたし!行きましょうか!
 蛍さんたちのつかのまの宴 ジャマしちゃダメですよね!」




「…で?どこに向かってるの?本家から 遠ざかっていくけど…」

「いま 何時でしょう?」

「えっと…」

 ぽわっと 忠志兄さんの手首が光る
 発掘作業は 薄暗い洞穴に潜ったりもするので
 腕時計は常に バックライトつきのGショックだそうだ。

「午後10時30分ちょい…だね」

「いい時間ですね…」

「…何が…?」

「亥の刻は 午後10時 子の刻は 午前零時ですから…」

 …はい??

 な、なんで!?

 どこから その発想が出るわけ!?

 何よ
 その…『いのこく ねのこく』って…!!

 頭の中が ???だらけだ
 周囲を見ても みんな 狐につままれたような表情…

 でも
 誰も せりかを とめない

 この子には そういうところがある

 学園でも 最上級生でさえ 彼女には 一目置いてる

 単に頭がいいだけじゃない
 従わざるをえない 何かが あるのだ

 やがて 暗闇の中に ぼわっと白い建物が浮かんできた

 …蔵…!?

 な、なんで?
 なんで…こんな夜中に こんなとこに?!




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№169 『闇に咲く花』【5】(side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

  女子高生名探偵 セリカ  闇に咲く花 【5】(side:セリカ)
  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「…で!?その漢詩には どんな意味があるのかしら!?」

 孝子さんが とがった声で ずいっと ご主人と私の間に割り込んできた。

 すっごく 怖い眼で にらみつけてくる。

「…の前に 確認したいのですが…」

 くるんと 北條夫人(先輩のお母様)に 向き直る。

「こちらのひいお祖父様って 皇室と 何かかかわりが おありで?」

「それは…元華族ですから…。
 鹿鳴館時代には お言葉をいただいたこともあったと思いますが…。
 私が 嫁いできたときには もう かなりなご高齢で…」

「どうして また そんなことを?」

「大正天皇の漢詩って…一部研究者以外には そんなに流布してるわけではないんです。
 現に 皆さん 大正天皇が漢詩を作られるってことさえ ご存じなかったでしょう?」


「ま、まぁ それは 確かに」

「…なのに…それを 利用して 暗号文に仕立てるなんて…。
 大正天皇の御作 暗記できるほど 熟知してた証拠です」


「暗号…?!」

「ええ これを 解けば 家宝のある場所が わかる…暗号です」

 周囲が 色めき立つのがわかる。

「あくまで想像ですが…」

「…え?」
 
「その家宝…『大正天皇にかかわる何か』だと 思います」

「だ、だから それって 何なの!?」

「やだー!そんなの わかるわけないじゃないですか!」

「…はっ!?」

「ここから先は 皆様の知恵の見せ所ですよ!
 私は しょせん 赤の他人なんですから」


 かぁっ

 孝子さんの顔が 朱に染まる。

「あ、あなた!それ いやみなの!?」

「まぁまぁ 義姉さん」

 忠志さんが 穏やかに 孝子さんを なだめる

「ひと休みしようよ。俺 お腹ペコペコなんだ」

「ああ そろそろ 直子さんが 夕餉のしたく終えてるころだろう、運ばせよう」

「あ、あなた!夕飯の支度なら 私が もうすませて 家に!」

「じゃあ 君だけは 食べに戻ったらいい、向こうの別宅に」

「…っ!」

 ……
 やれやれ…

「孝子さん あなたが作ったお料理も こちらに運んできては いかがですか?」

「…え?」

「この暑さじゃ 痛むの早いですし せっかくのお料理 無駄にしては もったいないお化けがでます!」

「まぁ!お若いのに 古風な考え方なさるのね!」

「そうなの、お母様!この子 何かといえば 『もったいない。もったいない』なのよ!」

「いいことよ、沙織も少しは見習いなさい!」

「はぁーい」

「じゃあ 私 お料理はこぶの お手伝いします!孝子さん、ご一緒に!」

「わ、わたしっ」

「俺が ごいっしょしますよ せりかさん」

 ためらう孝子さんを尻目に さっと 寛志さんが 立ち上がった。

「食堂に並べてるんだろう?孝子」

「わ、私が 行きます!」
 
 あせったように 孝子さんが 立ち上がった。


 孝子さんに連れられて来た車庫
 その一角に 銀色に輝く車が止まってる

「…っ!?」

「あーら 見たことないの?ソーラーカー」

 孝子さんが リモコンでドアを開ける。

「あ、その…ニュースなんかでは…」

「ふふん、そうでしょうね!安くなったとはいえ 1台 2千万!庶民には 高嶺の花よね!」

「は、はぁ そう…ですね」

 促されるままに 助手席に乗り込み ベルトボタンを押す
 右側の穴から しゅっと ベルトが飛び出し かちっと 左の穴に飛び込んでいく

「…あら?乗ったことあったの?たいていの人 それで とまどうのに…」

「し、CMで…」

「ああ なるほど。若いだけあって 順応性あるのね」

 言いながら すっと 車を発信させる。
 
 太陽光をエネルギー源にする車
 まったく音をたてず すべるように静かに 路面を走っていく

「あ、あの?別宅に行くんじゃ」

「だから 向かってるじゃない」

「…車で?」

「ここから 私たちの住んでる別館まで 1kmあるの」

「…さようでございますか」

 あー やだやだ
 これだから 限度のない 金持ちの家ってのは!



「広い敷地ですね」

「……ええ」

「それに 見渡す限り なんて すてきな和風庭園!」

「………まぁね」
 
 う~
 気まずい!

 覚悟はしてたけど 孝子さん さっきから つんつんつんつんっ サボテンもーどだ。

「ねぇ 孝子さん?」

「…なにかしら」

「お義父さまの最期…あなたも 立ち会われたのでしょう?」

「当然でしょう?!私は 長男の嫁なんですから!!」

「そのときのご様子…あなたから見た目で 忠実に再現していただけませんか?」

「さっき 主人が 言ってたじゃないの!」

「『あなたから』見て…です!」

「…え?」

「肉親は そういう場合 気が動転して 微細なことは 覚えていられません。
 あの場で 一番 信用のおける証人は 孝子さん あなたです!」


「っ!」

 何か言い返したかったようだけど
 数秒後 孝子さんは 根負けしたように ため息をついた。

「2月の…寒い夜だったわ。私たちの邸に 本家から 急な呼び出しがかかって…。
 急いで駆けつけたときは…お義父さまは 苦しそうに 胸を 押さえて 居間に倒れていらっしゃた」

「その場に居合わせたのは?」

「お義母さまは それはもう 取り乱してらして 沙織さんは 必死に心肺蘇生なさってて…」

「忠志さんは?」

「研究室にいらしたので…私たちの後から かけつけてこられたわ」

「…研究室?」

「本家をはさんで 私たちの別館とは 反対の位置にある小さな館よ。
 本家からは、3km位 離れてるの」

「…サヨウデゴザイマスカ…」

 はぁ…。
 なんかもう なにも言いたくなくなってきた!

「どろだらけの発掘品とか持ち込んで 修復したり 復元したりする作業場もいるからと
 敷地の端っこに 建ててるのよ。5LDK程度の狭い建物だけど」

「…はぁ…」

 ったく!
 金持ちって…これだから!

 やがて 寛志さんご一家のお住まいという別宅に到着した。

 本家とは がらりと違った 純洋風 
 周囲の和風庭園から 完全に 浮いている

「お義父さまは 主人の手を握って 必死に訴えてらっしゃるのだけど…あうあう…と お口が動いてるのに
 お声が出ないらしくて とても 悲痛なお顔をなさってらした…」

「『蔵の…を…見ろ』は、聞こえたんですか?」

「私には 聞こえなかったわ。主人は 口元に 耳寄せてたから かろうじて聞き取れてたようだけど」

 言いながら 腰にぶらさげた鍵で 孝子さんが勝手口を開けた。

 食堂について 並べられてた料理を タッパーに詰め替えていく。

 そこにあった 湯飲みやお茶碗手に取り 改めて 孝子さんに問う。

「この大きなお湯のみ(◎)を お義父さまとしますね」

 テーブルの真ん中に お湯のみを置く。

 孝子さんが 何が始まるのか という 怪訝な眼で見ている。

「孝子さんが この華やかな蘭のお茶碗(●)、ご主人の寛志さんは、この松の椀(○)
 忠志さんが、この竹の椀(△)、沙織さんが梅の椀(◆)、沙織さんのお母様が、小さなお湯のみ(■)」


 言いながら 茶碗と湯のみを置いていく。

「位置関係 再現してくださいません?」

 ふぅ
 めんどくさそうなため息つきながら 孝子さんが 茶碗や湯のみを並べる。

「この角皿(□)がお義父様の胴体。お箸(=)を脚とするわね」

 そういいながら こんな図を 作ってくれた。

                 寛志 孝子
                  ○ ●             
                  ◎□=(義父)           △忠志
                  ■ ◆
                 義母 沙織

「…忠志さんだけ 少し遠いですね」

「本当に ぎりぎりで…。
 忠志さんが、やっと入り口に着いたところで…お義父様、お亡くなりになったのよ」
    
「そうでしたか…お気の毒に」

「ええ 日ごろ すごくお元気だったから…私たち こんなに早く お別れが来るなんて夢にも…。
 きっと お義父さまだって 予想も なさってなかったんでしょう」

 ふぅ
 深々と 孝子さんがため息をつく

「きっと…寛志さんに伝わらなかったことわかって…絶望されたに違いないの…。
 ものすごく 悲しいお顔で…逝ってしまわれたわ。
 『ああ、こんなことなら もっと早く伝えて置けばよかった』って 後悔されたんだわ…」

「…それで…早く 見つけてあげたかったんですよね?」

「できたら ご霊前にお供えして…安心させてさし上げたかったのに…」

 震える唇を かみ締めている孝子さん 
 
「…でも 見つからないし…家の人たち みんなから 泥棒猫みたいに言われるし…」

 今にも 泣きそうなのを 必死にこらえてる

「やっぱり 思ったとおりでした!」

「…え?」

「孝子さんって 悪い人じゃないって 予測あたってました!」

「は?」

「そりゃ わがままだし 自分勝手だし 口悪いし 性格には問題ありますが 悪人じゃないですよね!」

「なっ!?」

「感情が素通しで表に出すぎですもの。孝子さんには 悪いことはできません」

「あ、あなた…なに」

「本当の悪人っていうのはですね」

 にっこり ほほえみかける。

「いかにも人畜無害ですっていう無邪気な顔して しれっと うそつける人間のことをいうんです」

「奇遇ねぇ!私 なんだか すごく身近に 居る気がするわ…そういう人間が…!」

「あーら そうなんですかぁ?」

「えーえ!ごく間近に!私のすぐ目の前にね!!」

 ???
 誰のことだろう…?

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№168(『闇に咲く花』【4】(side:忠志)

スパイラル・スキップ・ビート!

  女子高生名探偵 セリカ   闇に咲く花   【1章② side:忠志】  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人




 翠青泉繁露濯得
 得紅雪甘漿正香
 滴滴人使光有若
 剖来神骨涼一嚼



 カッ コーン

 ししおどしの音が 静かな日本庭園に響く

 じーっと 目の前の半紙を見つめるせりか嬢に 全員の目が集中している

「韻も 踏んでなければ 平仄も合ってない…まさしく 杜撰(ずさん)な詩ですね…」

 いん? ひょうそく??

 思わず 眼で 沙織を見る

 『私に聞かないでよ!』険しい眼で 睨み返された。

「…でも…この字の並び どこかで見たこと…」

 眼を閉じて 思考の姿勢に入った彼女を 全員が固唾を呑んで見守る。

 なぜならば
 俺たち全員 その漢詩を見た瞬間 ギブアップしたからだ

「沙織!おまえ、上級生だろう!現役高校生だろう!漢詩 習ってるんだろう!?」

「そういう兄さんは 現役 大学院生でしょう!?」

「ジャンルが 違う!」

「センター試験 国語あったでしょう!?」

「広く浅いセンター試験で こんな難解な問題 でるもんか!」

 などという
 醜く あさましい 言い合いの後

 『せりかさんに お任せしよう』

 北條家全体の意思が 暗黙のうちに一致した

 母や 兄は 最初から 丸投げだったし
 義姉は 必死に考えていたが どうにも お手上げだったらしい

「わかりました!」

「え!?」

「これ 元あった漢詩を ばらばらにして 書いてるだけで…元は こうです」

 濯得青泉翠有光
 剖来紅雪正吹香
 甘漿滴滴若繁露
 一嚼使人神骨涼


 さらさらっと 広告の裏に 彼女が書き付けてくれる。

 ???
 どっちにしろ わからないのは 変わりない!

「で?この漢詩!どういう意味か 教えてくれるかな?」

「スイカは 素敵な果物だ」

「…は?」

「ぶっちゃけていうと そう書いてあるんです。

 忠実に読めば、

 『青泉 洗い得て 翠 光 あり。
  剖(さ)きくれば 紅雪 正に香を吹く。
  甘漿(かんしょう)滴々 繁露のごとし。
  一嚼(いっしゃく)人をして 神骨涼しからしむ。』

 青い泉に洗われて つやつや 緑色に光る。
さけば 中は 赤い雪のよう 芳香を放つ。
 甘い汁が ぽたぽた 露のようにしたたる。
  かめば、身も心も たちまち涼やか。―って 」


「なんか 急に スイカが 食べたくなってきたなぁ」

「いかにも おいしそうな詩よねぇ…」

「…とはいえ」

 寛志兄さんが 顔をしかめる

「家宝の中身が、『スイカは、うまい』って漢詩?
それは いくらなんでも…」

「本来なら この『青』は、『清』。『若』は『如』なんですが…」

「…どうして わかるの?」

「この詩『西瓜』の原作 知ってるんです」

「へぇ?誰の作品?」

「大正天皇」

「えぇー!?」

「即位されて、3年目の作品です」

「大正天皇が こんな難しい漢詩を!?」

「歴代天皇の中で 最も 多くの漢詩 残されてるんですよ。
 その数 22年間で なんと1367!
 1週間 1首のハイペースで 作ってらっしゃったんです!」


「ええと でも 大正天皇って…あの…」

「議会の壇上で 勅書 くるくる丸めて のぞきこんでみたっていう…」

「影でささやかれてるような 知的障害が 本当にあったのなら
 こんな漢詩 絶対 書けませんから!」


「おつきの人間が作って 天皇の作に見せかけたとか」

「だとしたら そこまで ハイペースで作る必要は ないでしょう?」

「な、なるほど…」

「…えーと じゃ この歌は 恐れ多くも 大正天皇さまからの大切な拝領品で…
 だから 大事にしてただけなのかしら!?」

 母が ぼうぜんとして 漢詩を見詰めてる

「でも それなら こんなに ばらばらにすることは なかったと思うんです」

「そんなの 写し間違えただけじゃない?」

「いくらなんでも…こんなに ひどい 間違いは…」

 じーっと 彼女が 漢詩をにらみつける。

 ほどなく
 寛志兄さんに 視線を向けて 真摯な表情で問いかけた。

「お辛いかもしれませんが…お父さまの最期のご様子…詳しく お聞かせ願えませんか?」

「…ええ…」

 兄も真剣な顔で ずいっと彼女のそばによる。

「失礼…実地に再現させていただきますよ」

 言うが早いか せりかさんの手を握る。

 彼女の左手の五指に 自分の五指をからめて ぐっと引きながら

「こうやって 俺の手を 必死に引っ張りながら…『蔵の…を 見ろ!』…と」

「『何を』…かは…」

「俺も 必死に 耳寄せて聞こうとしましたが…」

「唇の動きは…?」

「…残念ながら…苦しそうに パクパクしてるようにしか見えませんでした」

「…うーん…」

 考え込んでしまった彼女に おずおず 提案する。

「あの…せりかさん、そろそろ 兄と手をほどいたら…?」

「は?…ああ!」

 あわてて せりか嬢が 兄貴の手をふりほどく。

「す、すみません!私ったら!!」

「いえいえ 可愛いお嬢さんの手を握れるなんて 役得でしたよ」

 寛志兄さんは 機嫌よく ほほ赤らめる彼女を見つめてる。

 …。

 あー
 忘れてた

 十分 現役だった この人

 そして
 やたら ストライクゾーンの広い人だったっけ!

 


 

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№167(『闇に咲く花』【3】(side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

  女子高生名探偵 セリカ      闇に咲く花     【3】(side:セリカ)  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 

       北條 寛志…貴島秀人


「あ、の『見えないところを探す』って…どうゆう…」

 忠志さんが おずおず 聞いてくる。

 蔵の片隅に置かれているたんすを 指差してみせる。

「あれ…ずいぶん古いタンスですよね」 

「あ、ああ 曾祖母が 嫁入りするときに 持ち込んだらしい。
 代々、長男の嫁に引き継がれてて…母も大事に使ってたんだが…」


「嫁いでこられて タンスを受け取られた孝子さんは いやがって 蔵におしこんだってわけですか」

「…まあ…ね」

 忠志さんが、苦い口調になる。

「日ごろ温厚な父が…ものすごく 怒ってたの 覚えてるよ」

 そうでしょうねぇ…。

 おそらくは
 持参した現代的な花嫁道具類とミスマッチだったのだろうけど

 お嫁入り早々「それ」では 婚家の皆様から いい感情は持っていただけないだろう。

 よほど 強力なバックボーンを お持ちなのだろうけれど…。

「蔵にほったかされてたせいで ますます いたみが 激しくなってね…」

「もう一度 お母様が お使いになればよろしかったのに」

「母も そうしようとしたんだけど…父が『もういい!忠志に嫁がきたら、使わせろ!』って」

「えーっと?そのころ 忠志さんって…」

「14歳だった。ずいぶん 気の早い話だと 思ったよ」
 
 うっわ!
 相当 腹に据えかねたんでしょうねぇ…。

 でも…きっと それだけじゃない…!

「だとしたら、やっぱり これが 怪しいですね」

 ただのタンスなら そこまで 激しく 怒りはしない。

「…は?」

 シューズの靴底に仕込んである作業道具セットを引っ張り出す。

 一見したところは 単なるミニミニ巾着袋
 日ごろは小さくしているそれを ボタンを押して しゅるしゅるしゅると 元の形に戻す

 中から 巻尺を取り出して たんすの寸法を測る。

「っ!?」

 忠志さんが あぜんとしてるようだけど
 周囲のこんな反応 いつものことなので 気にしない。

「隠し引き出しがありますね」

「え?!」

「あからさまに 寸法がおかしいです。この部分。1,5cm」 

 たんすの最上段と2段目の間を指差してみせる

「…ま、まさか…」
 
「忠志さん 皆様を呼んでください、孝子さんも。
私たちだけで開けるのは 後々 問題でしょうから」


「ね、義姉さんも!?」

「当然です」




「…まさか このたんすに 隠し引き出しがあったなんて…」

 先輩のお母様が ぼうぜんと たんすを見つめてる

「嫁入ってから 孝子さんに 引き渡すまで 25年。毎日 使ってたのに…!」

「すぐには 見つけられないからこそ 『隠し』なんですよ。
 わざわざ 寸法 測ってみようとは どなたも思わないでしょうから 当然です」


「…でっ!どこに 隠し引き出しがあるのかしらっ!?」

 真っ青に引きつった顔で 孝子さんが 問い詰めてくる。

「失礼な言い方するな、孝子」

 たしなめたのは 先輩の一番上のお兄さんの寛志さん

 この方も長身のすっごくかっこいい男性
 孝子さんが 一目ぼれしたのも 無理はない

 沙織先輩も 学園みんなに崇拝されてる あこがれの女王さま
 
 つくづく 美形一家よね!

「せりかさんが見つけてくださらなかったら 俺たち 誰も わからないまま 文字通り お蔵入りだったんだ。
 代々 長男の嫁に使わせること…その言い伝え自体が 大きなヒントだったのにな、本来なら」

 寛志さんの言い方は 静かだけれど すごく 冷たい。

「っ!」

 孝子さんが 何も言えずに うつむいてしまう。
 北條一族の非難する目が 彼女一人に あつまっている。

 うう
 苦手だ この重苦しい 冷たい空気!

「こちらをご覧ください!」

 わざと明るい声をはりあげて 皆さんの注意を こちらに向ける。
  
「ここの1段目と2段目の境、1,5cmの誤差があるんですが…」

 一番上の引き出しを抜けば 抜いた後には 市松模様の組み木が並んでる。

「他の引き出しは 一枚板なのに ここだけ こうなってるの 変でしょう?」

「…き、気がつかなかったわ…抜いた後の底なんか…気にしたこと…」

 北條夫人が 唖然としてる。

「普通は 誰でも そうですよ」

 2段目の引き出しも抜いて 下から こんこんたたく。

 …と
 組木の一つが ぽんっと浮き上がった。

「「っ!?」」

「あとは 寄木細工…」

 その1ピースさえ外れれば、組み木は 箱根細工のように するする 動かせる。

 かちっ

 ぽん!

 最後の組み木をはめこんだとたん
 1段目と2段目の境の部分から ごく薄い引き出しが飛び出した。

「「「おおお!?」」」

 一族の皆様が かけ寄ってきた

 中に入ってたのは 古ぼけた1枚の半紙

「おばさま、これを手にはめてから おとりください」

 はめてた薄手の白手袋をはずして お渡しする 

「え、ええ!」

 手袋をはめるのも もどかしげに 北條夫人は その紙を取り上げた。

「…??漢詩…?!」

 その不思議そうな声に 全員が 夫人の手元を覗き込む。

 相当の達筆で 1行に7字 4行の漢詩が 書かれている。

  翠青泉繁露濯得
  得紅雪甘漿正香
  滴滴人使光有若
  剖来神骨涼一嚼


「七言絶句ね」

 現役高校生の強み
 真っ先に 沙織先輩が指摘する。

「はい。題名は 書いてないですが…」

「ば、ばかばかしい!亡くなられたお義父様が ご自分の作品 隠してただけでしょう!」

「いいえ、主人の筆跡ではないし…かなり 古いわ」

「ばかばかしいと思うなら おまえは もう 戻るといい。あとは 俺たちだけで 考えるから」

「わ、私はっ!」

「どっちにしろ」

 穏やかに 忠志さんが 口を挟む

「こんな暑苦しいところでは 考えもまとまらないだろ?皆で 母屋に戻ろうよ」






 


 
 

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№166(『闇に咲く花』【2】(side:忠志)

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  女子高生名探偵 セリカ   闇に咲く花     【2】(side:忠志)  

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 


「初めまして 北條忠志です。妹の沙織が お世話になっております」

「よ、吉野せりかです。いえ!お世話になっているのは 私のほうです!」

 ちんまりした少女が にっこりほほえんで きちっと頭を下げる。

 これは これは
 なんとも かわいらしいお嬢さんだ。

 つい 顔も ほころぶ。

「2番目の兄よ。大学院生なの」

「どうぞ よろしく、せりかさん」

「こちらこそ よろしくお願いします!」

 じっと
 少女が 俺を見つめてくる。

 …?

 なんだ?

 いや
 自分で言うのもなんだが
 女性が俺を 熱く色っぽく見つめてくることには 慣れている

 だが
 この子の視線は

 なんというか
 まったく そういう 色っぽいものを 感じさせない

 たとえるなら 飼育箱の中で観察されてる かえるのような気分だ!

「発掘作業でしたか。暑い中、お疲れ様です。今日は どちらに?」

「ああ、纏向遺跡に…」

 …え!?

 ぱっと 沙織を見る。

「私は何も言ってません。というか 私も 初耳。今日、発掘作業なんて 言ってなかったじゃない」

「あ、ああ…しょ、小学生が 先日 巨大ザリガニの化石発見したものだから、
 みんなが触発されて急遽…」


 って!
 
「…あの…なんで 発掘って…わかっ…」

 作業服は脱いでるし シャワーだって浴びてきたぞ!?

「だって 顔は焼けてますが 首筋は焼けてません。手は 指先だけが 日焼けしけてます。
 日差しの照りつける中、頭と首筋だけは しっかりガードしてるってことです。
 それだけなら 何か 草取り作業でもしたかと 思うところですが 指先だけが焼けてる。
 つまり 指先だけない 手袋をはめてる。
 手の部分はガードしなければならない だけど 先っぽは 微妙な作業が必要だっということですよね。
 それに その指のたこ ペンというより はけ ブラシの型がついてます!」


 ~~~!

「さ、沙織…っ!?」

 何だ!? この子は!

「私の自慢の後輩。いい子でしょ?」

「あ、ああ…そ、そうだね…」

 いや
 むしろ 怖いから!



「ダイイングメッセージ…?」

「ああ」

 今までにないタイプの女の子につい興味がわいて
 蔵の整理整頓の手伝いの任務 妹から 強引に譲り受けた。

 一つ一つ 桐箱を あけては 中身を確認していきながら せりか嬢の問いに答える。

「我が家には 代々伝わる家宝があるそうで…」

「…『そうで』?」

「直系の長男にしか そのありかは教えられないっていう家訓でね。なんなのか 俺にもわからない」

「あら、じゃ ご長男の…寛志さんなら ご存知なのでは?」

「それがね…。まだ、聞いてなかったそうなんだ。
 父も 時期を見て教えるつもりだったんだろうが あまりに 急な発作で…ね」


「そ、そうでしたか」

「父もあわてたのだと思う。いまわの際に…もう 必死で…苦しい息で 兄貴に 伝えようとしてた」

「…なんて?」

「『蔵に…を 見ろ』」

「え!?じゃ!家宝が…この蔵に あるってことですか!?」
  
「と 義姉も 思ったのだろう。
 葬儀もろくに終わらぬうちから 親戚筋の古物商呼んで 蔵の中 大捜索」


「でも…見つからなかったのですね?」

「ああ 相当 徹底的にやったらしいけどね」

「…ということは…」

 せりか嬢が 鋭く 周囲を 見渡した。

「見えるところには なかったのでしょう」

「…は?」

「それなら 見えないところを 探せばいいんですよ」

 にっこり
 少女は 微笑んだ。

 ぞくっ

 なんだろう
 なんか怖いぞ!?この子!!

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№165 『闇に咲く花』【1】(side:セリカ)

スパイラル・スキップ・ビート!

  女子高生名探偵 セリカ   闇に咲く花    【1】(side:セリカ)   

       監督   緒方 啓文

       吉野せりか…京子

       北條 忠志…敦賀 蓮
 
       北條 沙織…琴南奏江 



 ぎぎぎーっ

 重い音とともに 古ぼけた木の扉が開く。

 夏だというのに ひんやりした空気 かすかなカビのにおい

「うっわぁー!すごいですねぇ…!」

 棚には 上から下まで 乱雑に ぎっしり 桐の箱が詰まっている。

 壁際には あっちこっち なにか雑多なものが山積みだ。

「さすが、元華族のお家柄!骨董品の山ですね!」

 さっそく 無造作に積まれていた山の中から お触を書いた木の立て札を発見して 小躍りする。

「沙織先輩!これ!江戸時代の武家諸法度を 一般に公示したときのですよー!?」

「で!?いくらになるのかしら?」

「え。ええと 全国にけっこう配布されたので お値段はさほど…」

「あっそ。じゃ、風呂のたきつけに」

「そんな!歴史の貴重な生き証人ですよーっ!?」

「あのね この蔵には そぉゆぅ やたら古いのが 腐るほどあるの!
 いちいち 感動してたら いつまでたっても 片付かないでしょ!」

「そ、それは そうなんですけど…」

「これは どういうこと!?沙織さん!!」

 っ!

 いきなり 背後から 冷ややかな声が降ってきた。

「蔵の中 整理整頓しようとしてるだけですが?孝子お義姉さま!」

 たかこ…おねえ…さ、ま?

 振り返って 改めて見る
 美人だけど ケンのある 30そこそこの女性

「まあ!こそこそ 泥棒猫みたいなまねするのね!」

 ど
 どろぼうねこ…っ!?

「あーら、お忘れかしら?お義姉さま。ここは 私の生まれ育った家ですのよ」

 沙織先輩も 負けてない

「それに!現家長の母から 頼まれてしていることです!
 ご不満がおありなら 母におっしゃって!」

「…お義母さま…がっ!?」

 ぎろっ
 
 びくっ!!

「…この方は?」

 お、お鉢が まわってきた!?
 ケンのある美女の目線が こっちに!!

「沙織先輩の後輩で、吉野せりかと申します」

 きちっと 頭をさげる。

「そぉう 初めて お目にかかりますわねぇ」

 ふっ

 は 鼻先で笑われたっ

 ああ
 ようするに

 「アンタ、上流社会の人間じゃないわね、フン!」…って 言いたいわけだ

「沙織さん あなたは いずれお嫁に出られる方。
 この家の実権は、今は、実質、主人にありますのよ」

「だから?私の言うことなど聞かなくていいって おっしゃりたいの?」

 !?
 ま、また 新手が登場!?

 わずかに銀髪がまじった上品な中年女性が
 冷たい眼で孝子さんをにらみつけている。

「…あっ…!」

 孝子さんが 真っ青になった。

「お母様、お帰りなさい!遅かったのね、もう、先に始めてたのよ!」

「ええ、ただいま。ごめんなさい 沙織。約束の時間に遅れて」

 お、お母様?!

「沙織の母です。ご挨拶が遅れましたわね、お嬢さん。えっと…」

「吉野せりかと申します!沙織先輩には いつもお世話に…」

「なったのは、私のほうよ。
 前に話したでしょ?お母様。なくなった部費の行方 つきとめてくれた賢い下級生」

「ええええ 聞いてますよ。お会いしたかったわ。
 開校以来の秀才だとか 全国模試満点トップだとか 沙織がいつも自慢してましてね」

「そ、そんな…」

「夏休み中 我が家に ご滞在くださるのでしょう?
 うれしいわ、どうぞ ご自分の家だと思って くつろいでくださいませね」

「あ ありがとう…ございます!」

「夏休み中!?初耳ですわ!!どうして 私に、一言」

「どうして あなたに 言う必要があるの?
 敷地は同じでも 世帯は別。あなたに 一切 ご迷惑は かけませんよ!」

「あ、あかの他人に蔵の中 見せるなんて どうかしてます!」 
 
「沙織に『暇を見つけて お友達と一緒に 蔵を整理整頓してほしい』って 頼んだのは 私です。
 元はといえば あなたと あなたの雇った 古美術商とやらが さんざん 蔵の中 引っ掻き回した挙句
 後片付けも ろくにせず ほったらかしにしてるからでしょう?!」

「わ、私は!ただ…お、お義父さまの ご遺品の整理を…!」

「この状態で…?」

 ちろっと 先輩のお母さまの視線が 蔵に注がれる。

 …うん…
 
 この乱雑さ
 
 どういいつくろっても「整理」じゃなく「荒らし」よね…。

「…私が 夫の死に 茫然自失してる隙に…泥棒猫は どっちかしらね!」

「わ、私…!お、お義父さまが いまわの際まで お心にかけてたことを…」

 え?

「そう それは ご親切にありがとう」

 ぴしゃっと
 北條家の家長は 孝子さんの言い訳をへし折った。

「で?さんざん 探して 何も見つけられなかったんでしょ?
 いまさら この子達の整理整頓に かみつかないでくださいな、見苦しい!」

 ぐっ
 悔しそうに 唇をかむ孝子さん

「…失礼します!」

 くるりときびすを返して 別邸に向かって早足で去っていった。  

「あー!頭にくる!とことん やな女!!」

 沙織先輩は ぷりぷりしながら
 お義姉さんが去った方向を にらみつけている。

「ほんとにね。あんなだから 寛志にも嫌われて 相手にされないのですよ」 

「…っ?!」

 え
 えっと

 こ、こんな 立ち入った話 私が聞いてて いいわけ?

「それじゃあ 私は 戻ります。無理なさらず、適当なところで切り上げてくださっていいのですよ。」

 私には 優しくほほえんで 北條夫人は母屋に戻っていった。

「あいつはね!寛志兄さんに一目ぼれして…財力に 物言わせて まんまと妻の座手にいれた性悪女なのよ!」

 蔵の中に戻って、整理整頓進めながらも 沙織先輩の怒りは納まらない。

「あの…孝子さんが言ってた『お父様の心残り』って?」

「…ああ…えっと…それは」
 
「父の最期の言葉でしてね」

 ん!?

 突如 降ってきた 涼やかなテノール

「忠志兄さん!」

 っ!!

 も、モデル!?それとも 俳優!?

 190cmはある やたら長身の
 ものすごくスマートでかっこいい美青年!!

 

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№164(蓮)

スパイラル・スキップ・ビート!



「敦賀さん おはようございます!よろしく お願いします!!」

「おはよう、最上さん。こちらこそ よろしくね」

「これが独身時代 最後の仕事だね、京子ちゃん!」

 かたわらから 社さんが にこやかに 彼女に話しかける。 

 …。

 思わず 顔をしかめそうになるのを 必死に耐える。

「は、はい。これ以後は 受験が終わるまで 仕事控えるつもりです。
 あれこれ 同時にこなせるほど 器用じゃないですから 私」


「そうだよね。子どもでもできたら よけいに 大変だろうしね!」

「…え…え、ええ」

 …ああ…

 まだ…ダメか

 まだ
 彼女は 「これ」を 完全に乗り越えては いない…か。

 不破!

 おまえみたいな若造に
 本当に 心の奥深いとこに 傷を残してる彼女を 支えてやることができるのか!?

 俺なら
 俺ならば 絶対に 彼女を支え 癒してやれるのに!

「楽しみだね 今回の仕事」

 からっと 話題そのものを 切り替える

「君のような可愛い探偵さんに追いかけられるなんて 犯人冥利につきるな」

「か、からかわないでください!」

「頭脳明晰 博学多識。女子高生 名探偵 せりか!京子ちゃんに ぴったりの役だよ!!」

「や、社さんまで!」

 ほほ 真っ赤にして 恥らう 純真な少女

 思わず ぐっとこぶしをにぎりしめ 抱きしめたい衝動をこらえる

 あのとき
 日本を離れるとき

 あんなに あっさり別れてしまわずに

 何か
 約束でも 交わしておけば

 もう少し なんとかなったのかもしれないのに!

 ヤツのガードに阻まれて もはや ゴール間近になってしまった…!

 挙式まで あと 3ヶ月

 ここからの挽回は さすがにきつい!

 だが
 最後まで あがけるだけ あがいてやるさ

 『女子高生探偵 セリカ』
 彼女の独身時代最後のこの仕事

 ありとあらゆる手段で 共演を勝ち取った

 これが 最後のチャンス

 一世一代の大勝負だ…!






 

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№163(尚)

スパイラル・スキップ・ビート!


『この画像で うちら夫婦は この先も 気をしっかりもって 生きていけます』

『 あの子が どんなに 幸せか…よう わかりますさかいに…』


 バカ…がっ!

 あんな
 顔もろくに映ってない動画なんか

 そんなものなんか…で…!

 目の前にある 向こうの両親の写真がにじんでぼやける

 …老けた…

 オレの記憶にある 1年前の二人より さらに 老け込んでる

 白髪増えたな 親父
 ほほ こけてるぞ お袋

 なんだよ

 オレは 完全に海外拠点だった
 だから めったに 会ったことなかったじゃないか!

 どうせ 家には 正月くらいしか 帰ってこなかっただろう?!

 帰っても 旅館も 忙しい時期で ほとんど顔あわせることもなかったじゃないか!

 なのに

 どうして たった1年ちょっとで こんなに つらそうに老け込む!

 そのくせ なんで そんなに 必死に 笑顔 作ってみせてるんだ!! 

 バカやろう!
 バカ…やろう…!

 ― ぴんぽーん ―

「松、いつまで こもってる気やの?」

 っ!

 防音室のインターフォンから 突如流れる お袋の声

「お、女将さん 尚ちゃんが 曲作りしてるときは 途中でじゃましちゃ…」

 背後で キョーコのひきとめる声

「そんなことで 途絶えるような曲想なら 最初から たいしたことない。
 今から 甘やかしたら あかんで、キョーコちゃん」
 
 ぴしり
 相変わらず 気の強い 母さんの声 
 
「松!せっかくのキョーコちゃんのお料理 冷めてしまうえ?すぐ 出てきなはれ!」

 ふつっ

 インターフォンの受信ランプが消える

 …ふぅ

 思わず 向こうの親父とお袋の写真を見直す。

 あんたたちも こっちにこられればいいのにな…父さん 母さん

 足して2で割りゃあ あの言動も 何とかなるかもしれないのに…!

 ため息つきながら 手元にある雑誌に 画像を挟み込む

 防音室出て 食堂に向かう途中
 こっそり 自分の部屋に入り 雑誌を書棚にもどす

 が
 隙間がなくて 挟み込めない

 お袋が いらいらしながら 待ってるだろう

 整理して 置きなおす暇はない

 やむなく 本の上の棚との隙間に 横にして置いておく

「遅いで!松!!」

「ごめん」

 思ったとおり お袋のけんけんとした声に 出迎えられる

「だけど こう しょっちゅう 上京…い、いや 東くだりしてきていいのか?旅館は?」

「大事な一人息子の一世一代の晴れ舞台やで?念には 念 いれんと!」

「今日はね お色直しの着物のこと 相談にのっていただいてたの!」

「キョーコちゃんは 何着せても 似おうてしまうさかい 逆に 選ぶのむずかしぃてなぁ」

 ほほほほほ

 機嫌よく 晴れ晴れとした顔で
 キョーコの作った料理 おいしそうにたべてるお袋

「…?松…?!」

「ど、どうしたの!?尚ちゃん!!」

「…え…」
 
 っ!

 しまった!

 ほほを流れてる熱いもの
 …に 自分が 泣いてたことを悟る

「いや 幸せだな…と しみじみ 思って…」

「まぁ なんやの?そんな女々しい理由で!」

「わかります!私も 今日 女将さんに あれこれ お着物選んでいただいてるとき
 ふっと『ああ 私って ホントに幸せだな』って うれしくて!涙が出そうになりましたもの!」


 言いながら
 キョーコの眼が うるんでいる

「ま、い、いややわ キョーコちゃんゆうたら…!」

 ああ

「う、うちまで うつってまうやないの!やめてんか!」

 本当に

「こんな調子じゃ お式までの 3ヶ月で 涙 かれはててしまうえ? しゃきっとせな!」

 あんたたちも
 こっちに こられればいいのにな…父さん 母さん

 この幸せを
 あんたちにも 味わってもらえれば いいのに

 ああ

 そう できたなら

 どんなにか いいだろうに…!!

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№162(レイノ)

スパイラル・スキップ・ビート!




「…すみません…。もしかして 言わないほうが…」

「…いや…ありがとう…。聞かせてくれて…」

 そういいながらも 不破さんの手が かすかに震えている。

「それにしても…動画まで 送れるとは たいした能力ですね、レイノさん」

「俺は 単に 媒体になって 道つなげてるだけです。たいしたことじゃないです」

「向こうの…動画を…こっちにとか…は」

「すみません 向こうの俺は 不摂生がたたってるのか いささか 精神力が 弱いようで」

 霊能力があるから
 俺には 薬物から立ち上る 死の影が はっきり見えてしまう

 向こうの俺も そうだったようで
 仲間に勧められても 断固として ヤクには 手を出さなかったらしい

 そのかわり
 アルコールには 際限なく おぼれたようで
 そこが 向こうの俺の精神力の弱さにつながってる

「静止画 送ってくるのが やっとでした」

 すっと カラー画像を差し出した

 不破さんの両親

 どちらも もうすぐ60という年齢らしい

 父親は すっかり白髪になったじいさんだが
 母親のほうは 40代くらいにしかみえない なかなかの美人だ

「…老けた…な」

 ぽつり
 不破さんが つぶやいた

「無理しやがって…!」

「…え?」

「こんな…みえすいた笑顔なんて…つく…って…」

 ……。

 うつむいたまま 不破さんは 顔を上げない

 その肩が 震えている

「失礼します…仕事があるので」

「え…え」

 ようやく

 不破さんが 顔をあげた

「レイノさん 本当に ありがとうございました」

 さっと 立ち上がって 俺に頭を下げる

 おだやかな微笑を浮かべながら…

「…いえ…では」

 ドアを閉めて ためいきをつく

 …無理…しやがって!  

 作るなよ!
 そんな みえみえの笑顔なんか…!


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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№161(尚)

スパイラル・スキップ・ビート!



「…はっ?」

 い
 いま なんと…

「あーら 私が 結婚するって そぉんなに 意外ですかぁ?」

 島さんが いたずらっぽく ほほえむ

「今年は 27歳迎えるんですよ?若すぎるってことは ないでしょ?」

「あ。ああ!お。おめでとう!」

「すてきです!!じゃ ぜひ 私たちと 一緒に!」

「それは勘弁して、京子ちゃん…。
 世紀のビッグカップルと合同なんて かすんじゃうの目に見えてるし!」
 
「…で…、その(勇気ある)相手は…?」

 なんせ
 グラマー美女な見かけに反して
 島さんは 柔道 剣道 少林寺拳法 すべて有段者。格闘技のプロ!

 おそろしくて うかつに 夫婦喧嘩もできまい!

「なにか…言外に ひっかっかるんですけど…まぁ いいわ」

 島さんが ドアのほうを くるんと振り返って 声を張り上げる。

「入ってきて!話は 通したから」

「し、失礼します」

 っ!!

「まあ!ひ、久永さん!?」

「こ、こんにちは 不破さん 京子さん」

 …ま
 まさ…か!?

「ほ、本気ですか?久永さん!」

「どぉいう意味かしら 不破さん!?」

「あ。そ、そういう意味じゃなく!
 そ、その独身主義って言ってたんじゃ…」


 向こうでは
 若いころのひどい失恋が元で
 すっかり女性嫌いになったとかで

 つきあった女性すら いなくて
 生涯独身通したまま ひたすら 風を追いかけて 放浪の旅

 40になる寸前に
 北アルプスの山に 風 撮りに行って…そのまま 消えた…のに

「え、ええ。そ、そのはずだったんです…が…」

 久永は 真っ赤になって うつむいている。

「律子は あまり 女って感じがしなくて 話しやすくて」

「ちょっと!それ どぉゆう意味よ!?」

「いつのまにか 一人の女性として 惹かれてました!」

「…っ」

 久永の きっぱりした言葉に
 かみつきかけてた 島さんも 真っ赤になった   

「そう…ですか。おめでとうございます、本当に」

 もしかしたら

「それなら 撮影登山は もう 控えたほうがいいですよ、久永さん」

 変えられるかもしれない!彼の運命も!!

「私も そう言い聞かせてます!”風にふかれりゃ 若後家さん”は 絶対、いやですもの!」

「え、ええ。家族もできることですし…。行くとしても 律子と一緒に いける程度の山にしますよ」



「うふふ」

 二人が帰って行った後
 オレのひざの上で キョーコが うれしそうにほほえむ。

「どうした?」

 その髪の毛に 口付けながら 耳元にささやいた。

「ね♪私が あの二人の恋のキューピットよね!」

「そうだな。お前のグラビア撮影 久永さんに依頼したのが 出会いのきっかけだものな」

「…うれしい…」

 ぽふんっ
 キョーコが オレの胸に顔を埋める

「私が…生まれてきたことにも 意味があった…って 思える…」

 …っ!?

 反射的に
 ぎゅっと 抱きしめていた

「あたりまえだ!」

 くそ!

「おまえがいるから オレは 生きていけるんだ!」

「尚ちゃん…」

「おまえが オレのすべてだ!!」

 どれだけ 愛情を注げば
 キョーコの底知れぬ寂しさを 埋めてやれるんだ!?

「神様が おまえを オレにくれたんだ」

「か、かみさま…?」

「ああ『幸せになれよ』って。リボンつけて…な」

 いいながら ロングマフラーを キョーコの体に巻きつけて 蝶ちょ結びにする

「しょ…!尚ちゃんったら!」

 たちまち ほほが 真っ赤に染まる 

「愛してる」
 
 そっと その唇に口付ければ キョーコも 眼を閉じて受けてくれる

 腕の中にある 確かなぬくもり

 夢のようだ
 もしも 夢なら いつまでも 覚めないでほしい

 少しも この幸せに 慣れることができない いまだに

 眼が覚めたら 向こうで
 幸せな夢を見ていただけなんだ…と 冷たく つきつけられそうで…

 キョーコ
 おまえにわかるだろうか

 お前がいるから
 オレは ここにいる

 お前を得るために
 オレは ここにきた

 すべては おまえのために

 オレは 運命を ねじまげたんだ
 『向こう』にある なにもかもを 捨て去って

 おまえのそばにいるために

 ただ それだけのために―!
 
  
 

 

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№160(Aレイノ)

スパイラル・スキップ・ビート!




「先生!レイノ先生!」

 耳元で がんがん響く声に 薄目を開ける

「だ、大丈夫ですか!」

「…うるさい…」

 額に手をあてると ひんやり冷たいタオルが乗っかっている。

「…何分…撮れた?」

「さ、3分ですっ!」

 ちっ!

「1分 100万…で 300万じゃ わりにあわん!二度とごめんだ!」

「に、2倍にして お払いします!で、ですから…」

「こっちの寿命が 縮むっ!!」

「じゃあ!3倍で!先生!お願いします!どうか!」

 マリア宝田が 必死の面持ちで俺にすがる。

「念写だけでも 相当きついってのに!」

 思わず 胸くそが悪くなる  

「念映写ときたら とんでもない精神力が必要なんだ!お前に この苦痛がわかるか!?」

 ぐっと マリアが 声を呑む。

「そ、そう…ですね。すみません…」

 しょんぼりと 金髪頭がうつむく。

「わ、私 け、結婚式の画像…不破さんのご両親に どうしても お見せしたくて…」

 そう
 今日は その予行演習

 今 観ていたのは 過去世界の京子が出ているシャンプーのCM

 それにからむ男の役を 過去に行った不破が 無償で受けたらしい
 ようするに 大事な女 抱きしめて その髪に触れる役 他の男にさせたくなかっただけだろうが…!
 
 「髪」が主役なので 京子の顔も ほとんどでないCMビデオ

 異様に若すぎる不破や京子の顔をさらさずに
 今(ヤツらにとっては未来)に紹介できる絶好の画像だと判断したマリアが 喜び勇んで俺に依頼してきた

 まったく!

 過去の俺は 実際にその目で見た像でなければ 俺に送ることができない

 ビデオを 過去の俺に見させて
 それを そのまま 俺が 念映写する…。

 いうのは簡単だが 実行は すさまじく苦痛だった

 静止画と動画では これほどまでに 処理速度が違うのか…!

「3分のCMビデオでこれだ。結婚式の実況中継なんて やらされたら 俺は マジで死ぬ!」

「じゅ、重要な場面 5分でいいんです!」

「…だから…」

「せめて、誓いの口付けシーンだけでも!」
  
 ぼろぼろぼろぼろ

 わがまま娘が ついに泣き出した。

「…おおきに。マリアはん」

 唐突に 女の声が響く。

「お、女将さん!」

「そのお気持ちだけで…心底…うれしおす」

 ドアのそばに 立っていたのは 不破の母親

「レイノはんが 念で映写してくれはったゆう…そのビデオ 見せておくれやす」

「は、はい!」

 わがまま娘が あわてて 巻き戻して再生ボタンを押す。

「…ああ…っ…キョーコちゃん」

 なつかしそうな声が 響く

「まぁ 元気そうや ほんま 心底 楽しそうで…」

 自分のほうが よほど 楽しそうだ 

「…っ」

 画面に
 ヤツの手が 現れたとたん
 生粋の京女は ぴくっと 固まった

 画面の中 男が少女を抱きしめ その髪をなでている

「~~…」

 京女の肩が 小刻みに震えだした

「お、女将さ…」

 画面が どんどんぼやけ 唐突に消えた。
 (このとき 俺が 気を失ったんだろう)
 
 すっくと 女が 立ち上がる

 くるっと こっちを振り向いた
 その顔には 穏やかな笑みが 浮かんでいた

「おおきに レイノはん ほんまに どんだけ 辛い思いしはったことか 最後の画面で わかります」

 深く 頭を下げる
 その姿勢のまま 微動だにしない

「…っ」

「この画像…ダビングしてもろうて よろしおすか?」

「も、もちろんです!すぐ ご用意します!少々 お待ちくださいね!」

 パタパタと 金髪娘が 部屋を出て行く。

「ほんま おおきにどした レイノはん」

 京女が にっこり ほほえんできた

 若いころは さぞ いい女だったんだろう

 今でも 35歳の息子がいるとは 思えない容姿だが

「この画像で うちら夫婦は この先も 気をしっかりもって 生きていけます」

「…え…」

「あの子が どんなに 幸せか…よう わかりますさかいに…」

 ほどなく戻ってきた 金髪娘が差し出したビデオを 抱きしめるようにして 女は帰っていった。

 「早う うちの人にも 見せてやりたいさかいに」そう言って 金髪娘の夕食への誘いを振り切って…

「ありがとうございました おかげで 女将さん すごく 喜んでくれました!」

 マリア宝田が 紙袋を差し出してきた。

 中をのぞけば 100万円の束が 5つ入っている。

 今回の謝礼なら 300万のはず

「200万は、身体的負担を おかけした おわびのしるしです」

 金髪娘が ほほえむ。

「結婚式、静止画なら お受けくださいますよね?」

「…ああ…。そっちは 1枚、10万で…な」

「はい、どうか よろしくお願いします!」

 晴れやかな笑顔で 俺に頭を下げる。



「…え?」

「だから おまえは どうやって 精神力を鍛えてるんだ?」

 結婚式まで あと 3ヶ月…らしい
 
 それまでに 何とか

「なんで そんなこと 俺に」

「おまえのほうが 俺より 強いからな 明らかに」

 過去に行った 不破に懇願されて
 こっちの不破の両親の写真を念で送ったことも多々ある

 そして 気づいた

 ヤングな俺のほうは まったく 疲れてないらしい

 同じ作業をしても…だ!  

「それは…年齢の問題じゃあ」

「肉体ならそうかもしれんが 精神は年と関係ないはずだ」

「とりあえず」

 向こうの俺が ため息つきながらいう

「アルコールを やめて 水にする」

「…なぜ わかる」

 思わず 右手にもってた カクテルグラスを 床に置く。

「そりゃ 自分だから」

 突如 くっくっと やつが笑い出した 

「あんたも 案外 可愛いところがある」

「…なにがだっ」

「不破の母親に 結婚式中継動画 見せてやりたい…そのために もっと精神力鍛えたい―なんて」

 ぐっ!

「あんたの場合 ヤクにも手を染めてないし アルコール断って、不規則な生活をやめれば すぐ成果がでる」

 すっと やつがまじめな口調になったので 悪態つくタイミングがはずれる。

「見せてやってくれ、俺からも 頼む!」

「…ああ…」

 窓を開けて グラスに入ってた酒 外にぶちまける

「…いっとくが!あくまで 金のためだからな!」

「わかってるよ」

 くそ!

 ホントに『わかってる』口調に む か つ く !

 だから いやなんだ!

 自分相手の交信ってのは!!


  

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№159(A蓮)

スパイラル・スキップ・ビート!



 
「続報はないのか!続報は!!」

「そ、それっきり なしのつぶてで…」

 …っ!?

 な
 なにごと…だ?

 撮影が終わって、スタジオから一歩でた
 そのとたんに 待っていたのは パニック寸前の大騒ぎ

 せわしなく 人々が行きかい 興奮した大声を はなっている

「れ、れんー!!た、大変だぁぁぁぁぁぁー!」

「どうしたんです!?社さん!」

「ふ、不破君が…」

 !?

「ま、まさか 容態が悪化したとか…」

 声が出なくなった…だけでは すまなかったのか!?

「い、いや そういうことでなく…」

 ゴム手袋はめた手で 社さんが携帯3Dプレイヤーを差し出す

「…これを…。百聞は一見にしかずっていうから…」

 ???

 腕時計を確認する

 21:30

 幸い 今夜は もう これで仕事はあがり

 キョーコは まだ 収録中。

 同じ局だから 見計らって迎えに行くことになっているが 終了予定時間は まだ 30分も後

 廊下の隅にある休憩コーナーに腰掛け いわれるがまま 再生ボタンを押す

 芸能ニュース特番…?

「なんと!あの 不破尚さんに ついに本命の恋人出現です!」

 …え…

「ほんと びっくりしましたよねぇ」

 にこやかに アナウンサーが コメンテーターに話をふる

「ええ 沈黙を破って 曲だけは どんどん発表されるようになって 喜んでいましたが
 また いっそう すばらしいニュースです!」

 コメンテーターのほうも 満面の笑顔だ。

「それでは!その話題の恋人の画像を ご覧ください!」

 しゅんっ

 画面が 録画に切り替わる

 一面の菜の花畑
 間に伸びる 舗装されてない細い道

 その道を 白い麦藁帽子の少女が ゆっくり歩いてくる
 
 っ!?

 キョーコ…?

 いや
 そんなはず…!

 つややかで美しいストレートの黒髪が 風になびく

 …ちがう…

 ふっと 気が抜ける

 キョーコの髪とは違う
 キョーコの髪は もっと軽い明るい茶色だ 

 画像の中の少女が ふと たちどまり 菜の花に手を伸ばす

 手のアップ
 指にモンシロチョウが止まる

 帽子を目深にかぶっているので その顔は見えない

 ふわっと いたずらな風が 彼女の帽子を 空に飛ばしてしまう

 あわてて 手を伸ばしたが 背が届かない

 …ところに すっと手が伸びて その帽子をつかんだ男の手 
 
 待っていた恋人なのか
 彼女は まっすぐに その男の胸に飛び込んだ 

 きゃしゃな背中をおおう ストレートの黒髪
 男の指が その美しい髪を いとしそうに梳いている

 ほっそりした少女は 後姿だけしか見えず
 男の顔も 画面が切れて 目元が映っていないのだが

 不破!

 わかる

 まちがいなく 不破だ!!

 映像は しだいにぼやけ ふっと消えた

「原因不明の難病で 声が出なくなり 精神的ショックで 私たちのまえからすがたを消していた不破さんですが…」

 アナウンサーの声は かけねなしに 弾んでいる

「最近になって どんどん 曲が発表されるようになったかげには こうした恋人の存在が あったのでしょうね!」

「ええ!その証拠に 最近の曲は どんどん 若く 明るくなってきていました。最高に幸せな恋をしているのでしょう」

「それにしても あの…失れ…ス、スーパースター不破さんの心を いとめたのは どんな素敵な女性なのでしょうか!」

 …一瞬 アナウンサーが 口ごもり あわてて いいつくろった。

 失恋ソング・シンガー

 彼についた別称

 さすがに
 当人の前で 言うあほは いなかったが

 キョーコへの未練をたらたらに込めた 切ないバラードが ヤツの歌風だったから

「一般人なので 顔を公開できない…ってことで…画像では、お顔が見えません。
 そこで 女性の美に詳しい お肌の専門家 笹チヅルさんに お越しいただきました」

 その声にこたえて スタジオに 一人の女性が登場した

 60歳を超えても 30代肌を維持してる 美容専門家だ

「帽子の下から少しだけ見える顔と 手の感じでは とても若い…お嬢さんですね」

 美肌のプロは きっぱり断言する

「17、8かしら。20歳は 超えてないでしょう」

 なっ!?

「え。ええー!そ、そうなんですか!?」

「色白できゃしゃで…なめらかな美しい手 なにより 爪が 若いんですよ」

 チヅル女史は、少女が抱きついた画面で止めさせて 男の鎖骨あたりに置かれた手を拡大する。  

「マニキュアもしないんでしょうね。少しも痛んでない。美しい健康な爪。清楚で純真なお嬢さんのようですね」

「そ、そこまで…わ、わかるものなんですか…」

「ええ、髪も…一度も染めたことのない 健康でつややかな髪で…みどりの黒髪って まさにこういう髪をいうのね…」

 ほぉ…

 女史が 感嘆のため息をはく

「お会いしてみたいわぁ きっと 素敵なお嬢さんだと思いますよ、私」

「本当に!ますます 興味がわきますね!どんな方なのでしょうか!」

「せめて 結婚式は われわれに 公開してほしいですね…」

「ええ!不破さんに ぜひ お目にかかりたいです!私、個人的にも 大ファンなんですよ!」

「あ、そうなの?じゃ 恋人出現とか ショックじゃない…?」
 
「失意のあまり ひきこもってらした不破さんを 曲作れるまでに 復活させてくれたんですよ?
 ファンにとっては大恩人です! 『恋人さん ありがとう!』ですよ!」

「そっかぁ…。いいファンだね…」

「やだ、からかわないでください」

 アナウンサーの顔が 本当に 赤く染まった

「このビデオは 匿名の方からの投稿でした。」

 その赤みが 収まらないまま アナウンサーが カメラに正面から向き直る

「数ある局の もっと数ある番組の中で たまたまではあっても 私どもを選んでくださったことに感謝いたします」

 深く頭を下げ、しばらく動かない

「…不破さんが…お幸せそうで…うれしかった…です…」

 ようやく頭をあげた
 必死に笑顔を作る その眼が真っ赤だ 

「ぜひ 第2、第3のお便りを お待ちいたします!」

 明るい声を作って 最後の挨拶を送るアナウンサーの声とともに エンディングテーマが流れる

 …なるほど…

 『たまたま』』では あるまい
 不破が(あるいは 不破サイドの誰かが) この番組を選んで送った理由が なんとなくわかる

 CMが流れ始めたところで 停止ボタンを押す

「何事かと思いましたが…おめでたいニュースじゃないですか。
 さっそくキョーコと相談して お祝いの品送らないと」


 彼のことだ。
 ここまで公開するってことは いずれ 結婚するってことだろう。

「びっくりした…まさか…彼が 他の女性を好きになる日が 来るなんて…」

「恋は遠い日の花火です。失恋を癒す特効薬は、新しい恋っていうでしょう?」

「そ、そう…だな!そうだよな!!」

 社さんの顔が 喜びに輝いた。

「よ、よかった!これで俺の気苦労の10分の1が 確実に消えた!!よかった、よかったよー!!」

「…は?」

 どういう…意味だ?

 なんで
 不破の恋愛で 社さんの気苦労が減る?

 ときおり わけのわからないこと わめくが 相当 疲れてるんだろうか

 だが

 よかった 本当に!!

 今度という今度こそ 心のそこから 安堵できる!

 声の出なくなった歌手
 華やかな舞台から消えた彼を それでも 愛したというなら

 今度という今度こそ 掛け値なしに本物の恋人に違いない

 なによりも
 彼女の髪に触れる 彼のその指が 能弁に語っていた

 ― 誰よりも いとしい ―

 よかった 

 本当に よかった

 幸せになれよ 不破

 俺と同じくらい 幸せに…な!
   

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№158(尚)

スパイラル・スキップ・ビート!




「不破君。最近、君のファッション 若やいできたねぇ」

「…え…。」

 めがねマネージャーの言葉に 思わず自分の服装に目をやる

 ビロードの紺のタキシード
 空色のアスコットタイにサファイアのタイピン
 袖口からのぞくカフスにも 同じラインのサファイアをあわせてる

「色もデザインも 若返ってきたよぉ 年相応に」

「 そ、そうですか?意識してなかったですが」

 …言われてみれば

 シック
 …といえば 聞こえはいいが

 いつも 黒か暗い紺
 アクセもなしな 地味なかっこうしてたっけ ステージ衣装でさえ

「いくら実力派とはいえ まだ若いんだし!そのくらいで ちょうどだよ!!」

「そうだな」

 メガネの力説に クー・ヒズリも 微笑みながら言い添えてきた。 

「若いときには そのときにしかない 『時分の花』ってのがある。
今しかできないファッション 楽しむべきだぞ!」

「え、ええ。」

「それに!そのほうが キョーコ君とも より お似合いだ」

「あ。ありがとうございます」

 自然に 笑顔になった。
 キョーコが 隣で真っ赤になってうつむく。

 そんなキョーコを
 ほほえましそうに にこにこ みつめる ハリウッド・スター

 …そうか…

 知らないのか こいつ

 自分の息子が
 その「キョーコ」に ほれてるってことを

「そうそう!俺のような年寄りになると ついつい世間の目だの 常識だのってヤツにとらわれて
 どうしても じじむさい格好になってしまうからなぁ!」

 がっはっは

 ぴっきーん

 高らかに笑う宝田社長の声に その場の空気が凍りつく

「…あ~ ボスは もう少し…控えめでも…」

「どういう意味だ!クー!こんなに 地味 かつ 目立たない 控えめなファッションを心がけているのに!」

 テンの毛皮一面に 宝石散らばらせたマント
 すべての指にはめられてる 七色にきらめく指輪

 …な かっこうで 言われても!

 説得力がないだろう!この古だぬきがっ!!



 


 





 

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№157(蓮)

スパイラル・スキップ・ビート!



「紹介しよう 蓮。我がLME伝説の名優 クー・ヒズリ。おまえの大先輩だ。」

 古だぬき宝田社長が しれっとした顔で 彼を 俺に引き合わせる。

「はじめまして。お目にかかれて光栄です」

「こちらこそ。才能ある後輩ができて うれしいよ」

 俺のあたりさわりない丁重な挨拶に 向こうも ごく自然に挨拶を返す。

「マネージャーさん」

「は…っ!はい!」

 俺の傍ら
 社さんが ぴきんぴきんに固まって しゃちこばった。

「君も さぞ 忙しいだろうが…彼は この日本支部を背負う看板スターさんだ。
 どうか 今後とも よろしく」

「も、もちろんですっ!!」

「ミスター・ヒズリに そこまで おっしゃっていただけて 光栄です」

 にこやかな笑みを作って 丁重に御辞儀をした。

 目の前の男は 何気ない笑顔で 穏やかな表情で立っている。

 伝説の…名優…か。
 なるほど たいしたものだ。

 5年前
 俺が家を出たときの 悲痛な表情が 声がよみがえる。

 久しぶりに会った 俺に
 言いたいことは きっと たくさん あるんだろうに…。

「…お?」

 彼の笑顔が 一気に崩れた。

 さっと その体が 入り口のドアに向かう。

「キョーコ!待ってたよ!尚君も ようこそ!!」

 弾んだ声が 部屋中に 響いた。

 な…っ!?

「す、すみません お言葉に甘えて…ま、まさか こんなに 少人数の内輪だけの歓迎会だなんて…」

「てっきり 正式なパーティだと思ってました。オレたちの このかっこう 場違いですよね。早々に…」

 パーティドレスと タキシードの二人は 入り口で そのまま回れ右しそうな勢いだ。

「不破君…。ボスのいでたち 見てから 言ってるか?」

「…は…?」

 不破の目が クー・ヒズリの親指の先を追う。
 そこには…フランス国王のような扮装の古だぬき…いや 宝田社長

「…お招きありがとうございます。おじゃまいたします」

 おみごと!

 ほんの一瞬
 天を仰いで ため息ついただけで

 ヤツは 即 最上君の手をとって 入ってきた。

 彼女が現れただけで 一気に華やかな空気になる。

「和服も似合ってたけど ドレスもいいねぇ…」

「本当に…お姫様さまのようだよ、最上さん」

「うんうん 似合うよ!京子ちゃん!!」

「あ。ありがとうございます」

 ライトブルーのサテンのドレス
 シフォンのストールの合間から 輝きを放つ
 サファイアとダイヤを組み合わせたネックレス

 ブレスレット ピアスも 同じライン
 彼女のきゃしゃなのどや手首を 彩っている

 2週間前の先輩の芸能生活30周年パーティでは たしか エメラルド

 その前の試写会では ルビー

「恐れ入ります」

 いかにも 我が物顔に
 ヤツが ほほえんで 誇らしげに礼を言う

 む か つ く !

 毎回 毎回!
 これでもかとばかり 彼女に 次々 宝石やら ドレスやら 貢ぎやがって!

 やたら 金かければ いいってもんじゃないだろう!この恥知らず!


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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№156(尚)

スパイラル・スキップ・ビート!



 ………。

「おおおお!かえした!あの スマッシュを」


「すごい!どっちも 一歩も譲らないっ!!」


 ああ
 頭が がんがんする…!


「す、すみません 不破さん わ、われわれも…思いもかけない展開で…」

「…い…え こちらこそ…進行のお時間 大丈夫で…?」

「え、ええ。今日は スペシャル枠で いつもの倍 時間とってますから…。
 あと5分以上ラリーが続くようなら 悦子さんに 笛吹いていただきます」


 かん かん かかかん かん!


「うっわぁー!俺 今の今まで 知らなかった!」

「は、羽根突きって ハードなスポーツだったんだなぁ…」


 …


 ど
 どこの世界に

 早すぎて 羽根が見えないような 羽根突きがあるっ!!


「それにしても 京子ちゃん…すごいなぁ。
 たすきがけで すそもからげてるとはいえ 着物なのに…」

「クー・ヒズリもすごいよ!
 40代半ばだってのに あの動き!」


  ぴ――っ  


 白梅さんの笛が鳴り響き
 クー・ヒズリが こんっと自分の手の中に羽根をおさめた


「…やるねぇ 京子君」

「み、ミスター…こそ…」


 キョーコのほほが上気し かすかに息を弾ませている。


「じょ…女優としては 顔に墨 塗られる…わけには…い…いきませ…ん から」

「俺だって ハリウッドスターの面目にかけて 顔に落書きされるわけにはいかないからね」

  いたずらっぽい笑顔で クー・ヒズリが ウィンクする。

  キョーコが 真っ赤な顔で 息乱してるってのに…余裕しゃくしゃくだ。

  ホント 化け物だな こいつ…! 

  悦子さんが 冷たい飲み物を用意したテーブルセットに二人を誘導し
  改めて 対談が再開された

「ありがとう 楽しかったよ。羽根突き。なつかしいな。
 よく 息子とこうやって 楽しく うちあったものだ」

 た の し く ? 

「え、えーっと もう少し スピードゆるめに…ですよね?」

「いや?息子と打ち合うときだって こういう早さだよ?
 スピードとスリル、羽根突きってそういう遊びだろ?」

 ちがーううぅぅうぅうう!!!!

 キョーコが真っ青になり スタジオ中を声なき声が支配した。

「ほほほほほ さすが アクションスター!発想が 一般人とは違うわねー」

 一人だけ 動じないのは 悦子女史

 さすが
 亀の甲より 年の功

「…でも。本当にすばらしいお嬢さんだ」

 クー・ヒズリが キョーコに優しく微笑んだ。  

「あれほど動いたのに 少しも着崩れてないし 所作は どこまでも優雅だったね」

「お、おそれいります」

 キョーコが真っ赤になって うつむいた。

 ………。

 キョーコを見つめる ヒズリの優しい表情…。

 知ってる この慈顔

 向こうで
 自分の義理の娘になったキョーコに
 あふれるばかりに そそいでいた笑顔…だ。

 こちらでは まだ 誰も知らないが
 実は この男は ヤツの…敦賀の父親で
 
「娘のように かわいがってる 才能ある女優が 実の娘になってくれるなんて!
 さすが、わが息子!『よくやった!』と ほめたたえたいですよ!」

 むこうで
 二人の電撃婚約ニュースが流れた直後
 緊急インタビューで答えてた…のを 覚えてる。

 結婚後も
 夫婦ともども キョーコを むちゃくちゃ溺愛してて…

 おふくろが つぶやいてた

「よかった だんなさまだけやなく ご両親も ええお人らや」

「あのお二人やったら…キョーコちゃんのこと かわいがってくれはる…うちと 同じくらい…」

「よかったわ キョーコちゃん 幸せで…」

 明るい声で そういいながら
 肩は さびしそうに 震えていて…

 見て…いられなく…て… 


 どう…しているだろう むこうのおふくろ

 オレまで いなくなって
 どんなに さびしい思いをしていることか

 でも

 ごめん 母さん

 戻れない
 オレは 絶対 戻らない

 ここに いたいんだ

 どうしても キョーコのそばに いたいんだ 今度こそ

 親孝行するから
 こっちのお袋を 心底  大事にするから

 どうか
 オレのわがままを

 許してくれっ!


 

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「スパイラル・スキップ・ビート!!」№155(京子)

スパイラル・スキップ・ビート!




  …え、ええええええ…!?

「失礼します」

「ようこそ、クー!」

 2m近い すらっとした長身

 金髪 青い目
 彫りの深い 端正な顔立ち

 ク クククク
 クー・ヒズリさんっ!?

「京子さん ご紹介しますね こちら…」

「ぞ、ぞんじあげております!ミスター・ヒズリ。
 I 'm very glad to meet you(お目にかかれて 光栄です)!」


 世界的に有名な ハリウッド大スター様!

 主演の正月映画 公開宣伝にあわせて 来日されたとは 聞いていた…けど

「ありがとう 君のようなすてきなお嬢さんにお目にかかれて 私も光栄です」

 にっこり ほほえんで滑り出たのは 流暢な日本語

 あ、そ、そうか

 この方 10数年前まで 日本で俳優なさってたんだった

 支部は違えど 同じLME所属
 うちの事務所で大騒ぎしてるから 聞くともなしに聞いている

「ありがとうございます、悦子さん。
 こんなおもてなしをしていただけるなんて、やることが粋ですね。」

「久しぶりの日本ですもの。本物のやまとなでしこが ご覧になりたいでしょう?」

「ええ…車窓から見れば 可愛いお嬢さんが あぐらかいて 地面に座ってるし
 麗しいお嬢さんが 道歩きながら すぱすぱタバコ吸ってるし…。
 もはや 日本女性の奥ゆかしい美しさは 過去のものかと 嘆いてましたが…」

 うっ!

 かぁぁーっ!

 ひ
 人事ながら 私のほうがいたたまれない

 あの神経 私には どうしても理解できない

 ああ もし そんな超現代っ子な役 回ってきたら どうしよう!?

 絶対 演じられそうにない!

「…そんな汚れ役 回ってきそうにはないね、君には」

 はっ!

「気品があって 優雅で 誇り高くて…今まで 君が演じた役は そういう”お姫様”ばかりだ」

「い、いえ…つい最近は 芸妓の役も…!」

「身分や立場のことを言ってるのじゃない 心の持ちようが…だ。」

「え…?」

「そうねぇ 蝶子も彩華も みんなそういう 凛とした女性ばかりよね」

 白梅さんも 相槌をうつ。

「スカートはいたまま 地面にあぐらをかいて座れるような女性は…気の毒ですよ」

 は?

「あら、なぜ?」

「誰にも愛されず 自分のことも愛してないってことですから」

 …え?

「そうかしら?恵まれた境遇のように見えるわよ?どのお嬢さんも おしゃれで ぜいたくで」

「ああ、そりゃ 親もいるし 彼氏だっているかもしれません。でも 本当には 愛されてはいないんですよ」

「そ、そんなこと 他人には わからないと 思いますが…!」

 彼女たちに 言わせたら

 『はぁ?!何 勝手に決め付けてんだよ!ウザイヤツ!!』 …だろう。

「私の娘なら 恋人なら 殴ってでも やめさせる。
 愛する女性の下着姿を 世間に さらけさせたりしない、絶対に!」

 っ!

「甘やかすことと 愛情は違う。
 たとえ 嫌われても いやがられても がんとして教えなきゃならないことはあるんだ」

「まぁぁ 親バカなクーさんのせりふとは 思えないわぁ」

「…はは。まぁ、多少 甘いとこもありましたが しつけはちゃんとしましたよ?」

 …?

 瞬時
 本当に ほんの一瞬

 この方の表情が かげった…?

「だから あなたは幸せだ。そんなにきちんとしつけられているのは、育てた方の愛情の賜物だ。」

 …っ!

「あ、ありがとうございます」

 ほわん

 脳裏に
 女将さんの笑顔が浮かぶ

 そうだ

 私は
 愛されて 育ってきた

 女将さんにも 大将にも 尚ちゃんにも

 あのころの私を 支えてくれていた…しっかりと…。

「そういえば 息子さんは お元気?もう 20歳はすぎたはずですわよね?」

「元気ですよ。自分の道を見つけてがんばってます」

 …!

 また…だ!

「京子さん この方の息子さんね すっごい美少年なのよ!」

「そ、そうでしょね。こんな素敵な方が お父様なんですから」

「ええ!お母様も 世界1のトップモデルで とびっきりの美女だもの!!」

 ささやかだけれど
 この話題になると この方の様子が暗くなる

「最近は X'masカードに 写真そえてくださらないから わからないけど
 きっと すばらしい 美男子にお育ちでしょうねぇ」

「ははは、それはもう」

 なにげない様子を演じてるから 白梅さんは 気づいてらっしゃらないけれど!

「ところで、ミスター、ヒズリ。
 久々の日本は お懐かしいでしょう?
 どうせなら 日本で お正月を迎えたいとか お思いになりませんか?」


 にっこり ほほえんで強引に話題をかえる

 白梅さんの眉がかすかに上がった
 …が 即 こちらの話題に のっかってくれる

「お雑煮におせち、タイの尾頭つき お赤飯…日本の正月料理は 世界1よぉ?」

 ここで なぜ 食べものばかり並べるのか なぞだけど

「あああ!なんてこと!悪魔のささやきだ!!」

 おおげさなしぐさで ミスター・ヒズリが 嘆いてみせる

「そんなこといわれると 帰国するのが いやになってしまうじゃないか!」

「ほんの2週間 延長すればいいのよ!ぜひ、そうなさい!!奥様や息子さんも お呼びして!」

 社交辞令でなく 白梅さんが熱心に勧める
 …のは いいけど 結局 話題が そこにいってしまうぅー!

 ミスター・ヒズリは 息子さんの話題になると 暗くなってらっしゃるのに!

「…残念だが 向こうで 予定がぎっしりでね 動かせないんだよ どうにも…」

「それじゃあ!」

 さっと 立ち上がる

「せめて 遊びで 正月気分を 味わってみられませんか?」

「あ、遊び?」

「ええ!」

 ここは タカTV

 つい先週 新春特番撮ったばかりだから 知ってるのだ。

 このスタジオのすぐ横の倉庫に
 その”道具”が ちゃんと あることを!  

  

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