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降らずの雨

小夜時雨(side:S)【降らずの雨 №2】

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「ショー!」

 目覚めてすぐ耳に飛び込んだのは…キョーコの悲痛な声。

「松!」遅れて、おふくろの声…。

 初めて聞いた…おふくろの…こんなせっぱ詰まった声…。

 …!

「キョーコ!無事か!?」

 やっと 思い出した!状況を!!

「ショ、ショー!」「…この子ゆうたら…ほんまに…」

「京子さんは、ご無事ですよ。」

 聞き覚えのない男の柔らかな声。

「不破さんが それこそ 全身でかばっておられたので、かすり傷程度で…
 それも ちゃんと手当も すんでますから。」

 これまた 聞き覚えのない 若い女の声。

「…痛みませんか?なんでしたら、もう少し痛み止めを…」

 医師なのだろう。最初の柔らかい男の声が優しく聞いてくる。

 言われて…自分の状態を 右手で触れながら 改めて確かめる。

 左手と右足が固定されている…骨折したらしい…。

「どっちも、単純骨折です。一月もあれば…。」

 最後に…顔に手をやる。
 目には 厚く 包帯が巻いてある。

「目…は…?」

 瞬間、はっと 息を飲む気配が漂った。

 …ので、即 理解した。

「ダメ…でしたか…。」

 やはり…な。
 あの木の根の一撃…もろに…くらっていたから…。

 …!

 キョーコ!

「キョーコは!?」

 まさか アイツまで!

「落ち着いて!不破さん!京子さんは、ご無事です!嘘じゃありません!」

「ショー!」

 キョーコが オレの右手をとって 自分の顔にあてる。

 顔中 丹念に触れて…傷が一つもないことに…安堵した。

「…良かった…!」

 これがお前じゃなくて!
 オレのほうで…よかった!!

「ショ、ショー!」

 他に 傷がないか 確かめようと
 手のひらを下に移動させて…
 病院の寝間着を着ているらしい…細い肩が震えて冷たいのに気づいた!

「おふくろ!」

「な、なんや?」

「何か 羽織るもの!京子に風邪ひかす気か!」

「…松…!」

「そ、そんな 私のことなんかより!」

「すまなんだな…気がきかんで。すぐ 持ってくるさかい。」

 おふくろが、立ち上がる気配がする。
 着物にたきしめてある 菊花の香りが揺れた。
 
「お。女将さん!わ、私のことなんか…!」

「京子ちゃん…松のそばにおったってな。頼んだで。」

 湿った空気の中から 菊の香りが薄らいでドアの向こうに動いた。

「女将さん!」

「キョーコ…」

 おふくろを止めようとするキョーコの体を こちらに向かせた。

「もっと…確かめさせてくれ…本当に…おまえが…無事なのか…。」

「…う、うん…。」

 動く右手を…腕に背中に腰に…すべらせていって…ようやく一息つけた。

 守れた!
 オレは やっと こいつを 守りきることができた!

 コイツがオレを求めていたとき
 オレの助けが 心底必要だった時に

 ひどい言葉で 突き落とした…その償いが…できたなんて 思わないけれど。

 ともかく 守れた!
 コイツの無事だけは 守れたんだ!確実に!!

「…よかった…。」

 右手一本で しっかりと その体を抱きしめた。

「お前が…無事で…本当に…!」

「ショー!?」

 キョーコの声が 次第にかすんでいく。

「ショー!ショー!!!」

「お静かに。痛み止めが 効き始めてるだけです…。」

 看護師らしい女の声。

「そうでないと…本来なら、激痛でのたうちまわる重傷ですのでね…この目。」 

 密やかな医師の声。

「ショー…。」

 オレの右手に…熱く感じるキョーコの涙…。

 窓をたたく半ば凍った雨の音。

 それら全部が、霞の中にとけて消えていった。

 
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